近世水墨画の最高傑作とされる長谷川等伯(1539~1610年)筆の国宝「松林図
高精細のデジタル鑑賞が楽しめる「TSUMUGU Gallery」では、この大人気作品を自在にズームして楽しむことができる。そこでは、リアル展示では見つけられないような思いがけない発見も……。
東京国立博物館・学芸研究部調査研究課の松嶋雅人さんの解説をもとに、 松林図屏風の魅力を5回のシリーズで解剖してみたい。1回目は、屏風に押されたハンコについて――。
6曲1双の松林図屏風の右隻の右端と左隻の左端には、等伯の落款が押されている。
ところが、「TSUMUGU Gallery」の「松林図屏風」>「左隻を見る」で試しに左端の印をよく拡大して見ると、その印は真正のものではないことがわかる。そう、等伯の「伯」の字のつくりが「目」なのだ。
もともとこの屏風は、寺院の障壁画として描かれたもっと大きな絵を、後から屏風の形に仕立てられたと考えられている。屏風に仕立てた人物が、偽の「等伯」印を押したのか。あるいは、もっと後の時代になってから、これが等伯の絵であることを知った人物が印を押したのか――。
真実は謎のままだ。
そもそも、偽のハンコが押されているのに、絵は本物だとどうして言えるのだろうか。
「長谷川等伯が描いた水墨画は全部で80点くらいあります。それらを全部並べたら一目瞭然。そのくらい、等伯の作品は変遷をたどることができるのです」。松嶋さんは断言する。
実は、等伯の評価が高まったのは昭和以降になってから。狩野派の作品などと比べて海外流出もほぼなかったので、国内に作品が多く残されている。それらとの比較の上でも、松林図が等伯の作品であることは疑いようがないという。
だが、なぜ偽の印が押されたのかはいまだにはっきりしていない。松嶋さんは「松林図屏風はすさまじく謎だらけの作品。確定事項はほとんどなく、今残っている絵だけで我々は考えていくしかない」と語る。
次回も松林図屏風のズームアップをもとに、作品の魅力を探っていく。
<vol2.「描かれたのは天橋立?三保の松原?」に続く>
高精細のデジタル鑑賞を楽しめる「TSUMUGU Gallery」では、松林図屏風の魅力を詳しく知るストーリーとともに、細部までクローズアップして作品の魅力を味わうことができます。ぜひご覧ください。
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/gallery/
東京国立博物館研究員・松嶋さんがとびきり好きな「推し」の美術作品を紹介する「私の偏愛美術手帳」も公開しています。美術館の楽しみ方といった興味深い話が盛りだくさん。シリーズを通して、ぜひ日本美術の面白さを再発見してください!
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