今までこのコラムで何度となく「お印」についてお話してきたので、皆さまはお印についてはもうご存じと思う。再度繰り返すと、「お印」とは皇族や華族の人々などが、記名の代わりとして、身の回りの品につける印章のことである。その昔、高貴な方に仕える人々が、高貴な方の名前を直接口にするのは畏れ多い、ということでできた風習という。
皇族の方の「お印」は誕生や結婚し、皇族となる際に決められる。男性皇族は植物、女性皇族は花であることが多いが、雪や星、また文字という場合もある。
以下は皇族の方々のお印一覧:
最初に挙げた写真のボンボニエールは、上皇さまと上皇后さまの御結婚50年、つまり金婚式の際のボンボニエールである。上皇さまのお印は「榮」という文字なので、その文字と上皇后さまのお印「白樺」を組み合わせたシンプルなデザインになっている。
こちらのボンボニエールは陛下の妹宮、紀宮清子さまの御成年式の際のもの。清子さまのお印「未草」が扇形の蓋部分に描かれている。未草はスイレン科の一種で、6月から9月頃に水面に睡蓮によく似た可憐な白い花を咲かせる。なぜ「未草」と呼ぶのか。この「未」とは「未の刻」のことで、午後2時のことを指す。この時刻に花を咲かせることから、「未草」という名が付いたという。
清子さまがお生まれになるより前に、那須御用邸(栃木県)で昭和天皇の散策に同伴された美智子さまが池のほとりで可憐な白い花を見つけられた。その際に、昭和天皇からその花の名前と由来を教えられた美智子さまは、「いずれ女の子が生まれたら未草をお印に」と密かに思われたという。
清子さまは平成17年(2005年)11月15日に、黒田慶樹さんと結婚され、皇籍を離れた。お二人の結婚式・披露宴は帝国ホテルで催され、ご両親である現上皇・上皇后陛下が歴代の天皇・皇后として初めて内親王の結婚披露宴に出席された。その際のボンボニエールが、下の写真のものとなる。大倉陶園製で、蓋部分には黒田家の家紋である柏をあしらい、ご自分のお印「未草」を側面に慎ましやかに描く。「いかにも清子さまらしい」と清子さまをご存じの方々が声を揃える上品なボンボニエールである。
プロフィール
学習院大学史料館学芸員
長佐古美奈子
学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。
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