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2024.11.5

【皇室の美】山本芳翠「唐家屯月下之歩哨」― 虹色の光帯びた月暈 独特の情景

「PARALLEL MODE: 山本芳翠―多彩なるヴィジュアル・イメージ―」

山本芳翠ほうすい(1850~1906年)は明治期の日本洋画普及に貢献し、「日本洋画の父」と呼ばれている。皇室とも関係が深い画家だ。

芳翠が最晩年に制作した「唐家屯とうかとん月下之歩哨げっかのほしょう」は、日露戦争の旅順攻囲戦での夜営の様子を描いている。露営地の唐家屯は前線に近く、警備にあたる直立不動の歩哨や、その奥に整列している兵などが描かれていることから、情勢が緊迫していたことを暗示する。

唐家屯月下之歩哨 山本芳翠
1906年(明治39年) 皇居三の丸尚蔵館収蔵

しかし、満月に照らされた露営地や月暈げつうんの描写はことのほか穏やかで神秘的な雰囲気を漂わせており、戦没者への追悼の意を表しているようにも感じられる。

中でも虹色の光を帯びた月暈は鑑賞者の目を引き、独特の情景へと導いており、芳翠の工夫がうかがえる。虹色の光の輪が見えるこの部分をつぶさに観察すると、緑味を帯びた下塗りを生かしつつ、その上に青、黄、だいだい、赤の淡い色の絵の具を筆で不規則にとんとんと置いていることがわかる。

隣り合わせに置かれた2色以上の色面は離れて見ると、混ざり合って見える。絵の具をパレット上で混ぜ合わせた場合と異なり、視覚による混色は、混ざれば混ざるほど色調が明るくなる。虹色の光を帯びた月暈を芳翠が明るさを損なうことなく描けたのは、視覚のそんな特性を利用したからだ。そうすることで表現の幅を広げようとしたのだろう。

芳翠は1906年、本作を皇室へ献上した後にこの世を去った。明治天皇は本作をたいへん気に入り、居間に飾ったとされる。

(皇居三の丸尚蔵館研究員 加藤広樹)

皇居三の丸尚蔵館特別協力 PARALLEL MODE: 山本芳翠―多彩なるヴィジュアル・イメージ―

【会期】12月8日(日)まで。月曜休館。休日の11月4日は開館し、翌火曜日休館
【会場】岐阜県美術館(岐阜市)
【主催】岐阜県美術館、文化庁
【共催】岐阜新聞社、岐阜放送、中日新聞社
【特別協力】皇居三の丸尚蔵館、東京国立博物館、文化財活用センター、紡ぐプロジェクト、読売新聞社
【問い合わせ】058・271・1313

(2024年11月3日付 読売新聞朝刊より)

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