2025.8.15
【皇室の美】五姓田義松「ナイアガラ景図」— 取材重ね 描き出した臨場感
「皇室を彩る美の世界 福島ゆかりの品々」(郡山市立美術館)
「ナイアガラ景図」は幅2メートル近い大画面に、カナダとアメリカを分ける雄大な瀑布を描いた油彩画である。横長のカンバスに描かれた風景は水平に二分され、上部には青空が、そして画面下半分には水煙を上げるナイアガラの滝が大きく広がっている。
遠くにのぞく街並みから、涼しさを感じるほどの滝の水飛沫まで細密に描かれた景色は、パノラマのように広がる構図も相まって、まさにその場で見渡しているような実感を伴っている。遊覧船による観光も知られたこの景勝地だが、画面中央にも滝つぼに向かう船の姿が描かれており、臨場感をより強めている。
本作は明治期に活躍した洋画家・五姓田義松(1855~1915年)が宮内省の依頼のもと、1889年(明治22年)頃に制作した作品である。義松は、洋風画を描いた初代、五姓田芳柳の次男として生まれ、1865年(慶応元年)にはイギリス人報道画家であるチャールズ・ワーグマンのもとで洋画を学んだ。
1877年(明治10年)に第1回内国勧業博覧会で受賞、1880年(明治13年)にフランス・パリへ留学し、その翌年に日本人として初となるサロン入選を果たすなど、日本の洋画黎明期を彩った。留学の帰途、イギリスとアメリカに滞在しており、その時の取材をもとに描いたのが本作である。
義松が皇室との関わりのもと描いたのは本作だけでなく、1878年(明治11年)には明治天皇の北陸・東海巡幸に随行した際の記録画を制作し、1892年(明治25年)にも「田子之浦」「加奈陀ビクトリア港」を宮内省へ納めている。
義松は本作の制作に際し現地で3度に及ぶ取材を行っており、その様子を日記に残している。本作の説得力のある描写は、それまでの日本絵画とは異なっており、陰影表現や遠近法のような写実的技法に長けた西洋画を学んだ義松が、その実力を活かし、実際に体験した光景を描ききったものであることがうかがえる。
(皇居三の丸尚蔵館研究員 矢澤南歩)
皇室を彩る美の世界 福島ゆかりの品々
【会期】〔2025年8月〕31日(日)まで。※会期中展示替えあり。
【休館日】毎週月曜日(8月11日は開館、翌日休館)
【会場】郡山市立美術館(福島県郡山市安原町)
【観覧料】一般1200円、高・大学生、65歳以上900円
【問い合わせ】024・956・2200
(2025年8月3日付 読売新聞朝刊より)