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2025.7.11

【皇室の美】高村光雲「猿置物」― 軽やか 気迫の老猿と差異

「皇室を彩る美の世界 福島ゆかりの品々」(郡山市立美術館)

「猿置物」は、明治から昭和にかけて活躍した近代日本を代表する彫刻家・高村光雲(1852~1934年)が、1923年(大正12年)に制作した置物である。猿回しの猿が烏帽子えぼしと袖無しを身につけ、能楽の祝言曲「三番叟さんばそう」を舞う姿が1本のサクラ材から写実的に彫り表されている。

「猿置物」高村光雲 1923年(大正12年) 皇居三の丸尚蔵館収蔵 
※8月3日(日)まで展示
重要文化財「老猿」高村光雲 1893年(明治26年) 東京国立博物館蔵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
※展覧会には出品されません

光雲の作品で最もよく知られる「老猿」(1893年、東京国立博物館蔵、重要文化財)は、空をにらみ上げる荒々しい野猿をトチの大木から彫り上げた大作である。深く彫り込まれた、うねるような長い毛並みやしわ、鉱物をはめた鋭い眼光により気迫に満ちた雰囲気をまとっている。

一方、本作は猿という同じモチーフではあるが、浅く彫られた毛並み、木目を鑑賞できるほど端正に整えられた装束や道具類、すんとした表情から、その主題に沿うように軽やかさや幽玄さを感じられる。「老猿」とともに本作も光雲自身が著した「光雲懐古談」(1929年)に写真が掲載されており、当時から代表的な作品の一つだったことがうかがえる。

光雲は浅草に生まれ、仏師のもとで伝統的な木彫技術を学んだ。1887年(明治20年)には東京彫工会の一員として、現在の皇居・宮殿の位置にあった明治宮殿の造営において室内装飾の彫刻に参加した。そして、89年(明治22年)の日本美術協会展に出品していた「矮鶏ちゃぼ」(皇居三の丸尚蔵館収蔵)が明治天皇の目にとまり買い上げられたことで有名となり、翌年には彫刻分野で最初の帝室技芸員(皇室による美術の保護を目的として宮内省により任命された美術家や工芸家)の一人となった。

本作は、秩父宮雍仁やすひと親王(大正天皇第2皇子)の成年式に際して、雍仁親王から大正天皇と貞明皇后へ献上したもので、宮内省が東京美術学校(東京芸術大学の前身)へ制作を委嘱した際、同校の教授だった光雲が担当したものである。光雲は本作以外にも皇族方の贈り物などを制作し、それらは皇室ゆかりの彫刻作品として皇居三の丸尚蔵館に伝わっている。

(皇居三の丸尚蔵館研究員 三島大暉)

◆皇室を彩る美の世界 福島ゆかりの品々
【会期】8月31日(日)まで。※会期中展示替えあり。
【休館日】毎週月曜日(7月21日、8月11日は開館、翌日休館)
【会場】郡山市立美術館(福島県郡山市安原町)
【観覧料】一般1200円、高・大学生、65歳以上900円
【問い合わせ】024・956・2200

(2025年7月6日付 読売新聞朝刊より)

郡山市立美術館のホームページ

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