天を目指すように茎をのばし、その先に色とりどりの花をつける罌粟。傍らには花の香りに誘われたのか、3匹の紋白蝶が舞い遊んでいる。
本作「罌粟」は1929年(昭和4年)に開催された第10回帝国美術院展覧会(帝展)に出品され、その後、宮内省の買い上げとなった作品である。作者は新潟県佐渡出身で、大正から昭和初期に京都で活躍した日本画家の土田麦僊(1887~1936年)。
麦僊は鈴木松年や竹内栖鳳に師事、さらに京都市立絵画専門学校で学んだ。また東洋美術と西洋美術を融合し、新しい日本画の創造を目指して、同窓の村上華岳や小野竹喬らと国画創作協会を結成。意欲的に作品を発表して京都を代表する日本画家となったが、49歳の若さでこの世を去った。
罌粟は江戸時代に琳派の絵師や葛飾北斎、同時代では小林古径や前田青邨などが画題として採り上げた。麦僊もこの花に心惹かれ、本作の3年前にも同じ画題で作品を発表している。制作にあたっては、罌粟の古画を模写し、また遠く愛知県まで出かけ花の写生を重ねたという。やわらかな花の質感、複雑な曲線を描きながら重なりあう葉のかたちなど、対象の特徴を巧みにとらえ、配色や構図に変化をつけることで、静謐な画面に独特のリズムが生まれている。
端正な線描と明るく淡い色彩により、美しく咲く罌粟の瑞々しさを余すことなく描き出した本作は、華やかさのなかに高い品格をたたえている。麦僊晩年の力作であるだけでなく、罌粟を描いた近代日本画のなかの逸品といえよう。花咲きいでるこの季節、展覧会場でぜひお楽しみいただきたい一点である。
(皇居三の丸尚蔵館展示・普及課長 戸田浩之)
◆ 展覧会「百花ひらく―花々をめぐる美―」
【会期】5月6日(火・休)まで。月曜休館。祝日の5月5日(月)は開館。会期中、一部展示替えあり。
【会場】皇居三の丸尚蔵館(皇居東御苑内)
【問い合わせ】050・5541・8600(ハローダイヤル)
(2025年4月6日付 読売新聞朝刊より)
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