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2024.10.9

【皇室の美】制作21年 気品に満ちた「雪月花」

皇居三の丸尚蔵館展「花鳥風月―水の情景・月の風景」

「雪月花」とは、移り変わる季節の中で最も趣深い風物を表す言葉だ。一般的に冬の雪、秋の月、春の桜を指すが、この三つを平安時代のみやびな風俗に取材して描いた上村松園の三幅対「雪月花」(皇居三の丸尚蔵館収蔵)を紹介したい。

作者の松園は1875年(明治8年)、京都に生まれた。幼年より絵を描くことに熱中し、90年の第3回内国勧業博覧会出品作が来日していた英国王子の買い上げとなるなど、若年よりその才が知られた。

女性の内面の美をいかに表現するか終生追究した松園は1944年(昭和19年)に帝室技芸員に任命され、48年には女性として初めて文化勲章を受章。翌年、74歳で没するまで精力的に制作活動を続け、近代の美人画を牽引けんいんした。

雪月花
上村松園
1937年(昭和12年)
皇居三の丸尚蔵館収蔵

その松園が大正天皇のきさきである貞明ていめい皇后の依頼を受け、21年をかけて制作したのが「雪月花」。

松園は幾度となく下絵をつくったが、多忙のため、納得のゆくまで集中して取り組むことができず、ついには一切の仕事を断って制作を始めた。毎朝5時に起床し、早朝の清浄な空気で満たした、ちり一つない画室で、一心に筆をふるったという。

こうした苦心の末、1937年に献上された本作は「私が有りつたけの全精力を注いだ努力作品」(「あゝ二十年」『大毎だいまい美術』16巻7号)と自ら評した渾身こんしんの作だ。

皇居三の丸尚蔵館では毎週金曜・土曜に夜間開館を行っている。月がさやかに輝く秋の夜、松園が描き出した気品あふれる人物に心を寄せてみてはいかがだろうか。ぜひ足を運んでみてほしい。

(東京国立博物館研究員 野中愛理)

◆ 展覧会「花鳥風月―水の情景・月の風景」

【会期】〔2024年〕10月20日(日)まで。月曜休館。祝日の10月14日は開館し、翌火曜日休館。夜間開館は18日(金)を除く金曜・土曜
【会場】 皇居三の丸尚蔵館(皇居東御苑内)
【問い合わせ】 050・5541・8600(ハローダイヤル)

(2024年10月6日付 読売新聞朝刊より)

夜間開館時間など展覧会の詳細は:
https://shozokan.nich.go.jp/exhibitions/2024moonandwater.html

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