日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2024.7.8

【皇室の美】当時最先端の磁石 伝統と融合

展覧会「いきもの賞玩(しょうがん)」(皇居三の丸尚蔵館)から

磁石応用四季草虫図衝立
工芸指導所 1934年(昭和9年)
〔2024年〕7月9日~9月1日展示

現在、さまざまな場所でごく身近に使われているマグネット(磁石)。何かの形をかたどったものや、デザイン性の高いものも多く存在するが、その先駆けとなる90年前のマグネットを用いた作品を皇室ゆかりの品から紹介しよう。

磁石応用じしゃくおうよう四季草虫図しきそうちゅうず衝立ついたて」は木製の4枚折衝立で、各面の上部には四季を表す一辺30センチほどの色紙形しきしがたがはめ込まれている。色紙形は、漆を塗った鉄板に蒔絵まきえでサクラソウ、タケ、ツタ、枯木が色彩豊かに表され、その上にアブ、カタツムリ、テントウムシ、ミノムシが取り付いている。これらの虫は合金製で磁石がはめ込まれており、色紙形に近づけると、吸い寄せられるようにぴたりと貼り付く。小型ながらも手足や触角の細部に至るまで丁寧に表現され、制作者の観察眼がうかがわれる。

夏(タケにカタツムリ)

虫たちにはめ込まれているのは、KS磁石鋼という製品である。大正初期に東北帝国大学の本多光太郎と高木弘によって発明され、当時世界最強の永久磁石と評されていた。昭和初期には、仙台にあった工芸指導所がこれを日用品や工芸品に用いた「KS磁石鋼応用工芸品」を考案、仙台の新たな特産品を目指して開発を進めた。1934年(昭和9年)、「KS磁石鋼応用衝立」と称して工芸指導所と金属材料研究所両所長より昭和天皇と香淳皇后に献上された本作からは、日本の伝統工芸と当時最先端の工業技術の融合をみることができる。

磁石のついた虫たちは、色紙形上で自由に位置や組み合わせを変えることができる。ここに掲載しているのは、献上時の記録をもとに再現した作品だが、虫の位置や組み合わせを変えることで、画面の雰囲気はどのように変化するだろうか。実物を見て自由に想像を膨らませてみてほしい。大人のみならず、夏休みを迎える子どもにもお勧めしたい一品である。

(皇居三の丸尚蔵館研究員 井上真里奈)

◇ 展覧会「いきもの賞玩しょうがん

 【会期】〔2024年〕7月9日(火)~9月1日(日)。月曜休館。7月15日、8月12日は開館し、翌火曜日休館。会期中一部展示替えあり。
 【会場】皇居三の丸尚蔵館(皇居東御苑内)
 【問い合わせ】050・5541・8600(ハローダイヤル)

(2024年7月7日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事