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2024.6.13

ヤマトタケル ― 団子 天翔ける心継ぐ

歌舞伎は、その文字が表すように「歌(音楽)」「舞(踊り)」「伎(演技)」の3要素からなる総合芸術である。

明治以降、近代化の波が押し寄せ、西洋のリアリズム演劇の影響下に「新歌舞伎」が次々執筆されると、「歌」「舞」の要素はしぼみ、せりふと演技中心になっていった。

近代歌舞伎が軽視した「歌」「舞」を取り戻そうと考えたのが、昨年亡くなった市川猿翁えんおうだ。「スーパー歌舞伎」と銘打った作品群は、せりふに現代口語を取り入れながらも、「ちゅう乗り」「早わり」「立ち回り」の演出で、江戸歌舞伎への回帰を目指した。

「現代語のせりふでわかりやすく伝えたい」と抱負を語る市川団子=いずれも吉野拓也撮影

スーパー歌舞伎の記念すべき第1作「ヤマトタケル」が今月〔2024年6月〕、大阪松竹座で上演されている。タイトルロールを演じるのは、猿翁の孫・市川団子。初舞台を踏んでから12年が過ぎ、20歳になった。

昨年は、団子ら澤瀉屋おもだかや一門にとって試練の年だった。一門を率いた四代目市川猿之助が、両親への自殺ほう助罪で有罪判決を受け、長い間、総帥だった猿翁は83歳で、息を引き取った。渦中にあって団子は、急きょ猿之助の代役を勤めるなど、奮闘してきた。

「ヤマトタケル」は、猿翁と作者である哲学者・梅原猛の熱い友情から生まれた作品で、親子の確執、青春の夢と挫折が描かれる。

天翔あまがける心から私は多くのことをした。天翔ける心、それがこの私だ〉という主人公のせりふを読んだ猿翁が「私のことを書いてくださったのですね」と梅原に感謝を述べると、梅原は「私のことでもあるのだよ」と答えたという。「私たちには同じ血が流れている」と互いに深く共感した。

2012年、祖父・市川猿翁(右)、父・市川中車(奥)の襲名披露を前に3世代で参加したお練り

タケルは無敵の英雄ではなく、痛みや悔恨を抱えた人物。その人物像には、後ろ盾のない「劇界の孤児」だった猿翁の人生、哲学の枠組みを打ち破り、大胆な発想で時に異端視された梅原の歩みも透けて見える。

梅原は「異端児が大きな仕事をして、報われずに死んでいく。報われることを期待もしないで死んでいく英雄の悲劇が描きたかった」と生前、語った。

幕切れで、タケルの魂は白鳥としてよみがえり、天高く舞い上がる。その姿には、亡き猿翁と梅原、2人を追いかけ、未来へ羽ばたく団子が重なって見えてくる。(編集委員 坂成美保)

◇ヤマトタケル 小碓命おうすのみこと(後のヤマトタケル、団子)は、謀反をたくらむ双子の兄・おお碓命(団子二役)をあやめてしまい、父・帝(市川中車)の怒りを買って熊襲くまそ討伐を命じられ、大和を去る。大碓命の妻・兄橘姫えたちばなひめ(中村壱太郎かずたろう)は、夫の敵討ちをしようと小碓命の後を追う。その妹・おと橘姫も壱太郎が二役で演じる。共演は市川門之助、中村福之助、歌之助、市川寿猿、笑三郎、笑也、猿弥、青虎ら。
 〔6月〕23日まで、大阪松竹座で上演中。(電)0570・000・489。10月は福岡・博多座でも上演される。

(2024年6月12日付 読売新聞朝刊より)

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