歌舞伎界の大名跡・市川團十郎白猿の長男・八代目市川新之助は、2年前にスタートした父の襲名披露興行で初舞台を踏み、家の芸「歌舞伎十八番」の「外郎売」「毛抜」などを演じてきた。今月〔2024年10月〕、大阪松竹座で始まった最終公演では、長唄舞踊の大曲「連獅子」に初挑戦している。(編集委員 坂成美保)
能「石橋」を歌舞伎舞踊に移した「連獅子」は、獅子の子育ての物語。親獅子は仔獅子を谷底に突き落とし、自力ではい上がってくるのを見守る。芸の修業になぞらえて、多くの歌舞伎役者が親子で勤めてきた。
新之助は現在、11歳。全国各地を巡った襲名披露の2年間を「せりふと立ち回りが大好きなので毎日が楽しかった。2年がとても短く感じました」と振り返る。
100回以上勤めた「外郎売」では、爽やかな口跡で早口言葉の「言い立て」を朗々と響かせ、「毛抜」では豪快な見得を決め、大器を予感させた。
幼い頃から、繰り返し見てきた舞台映像がある。父の「連獅子」だ。「いつか父と一緒に勤めたい」との思いを温めてきた。志願して、襲名披露を締めくくる演目に選んだ。
稽古では「どちらかというと苦手」という舞踊に向き合った。見せ場は親子が共に、たてがみを振る「毛振り」。「父とイキが合わない。長い毛が重い。体力が続かない」。一歩ずつ課題を克服していった。
今月〔10月〕10日に初日を迎え、キレ抜群の踊りと勇壮な毛振りを披露。劇中の仔獅子さながらに、厳しい試練を乗り越え、喝采を浴びた。気迫に満ちた表情は、もう幼い子どもではなく、立派な役者の顔だった。
いちかわ・しんのすけ 2013年、東京生まれ。15年、本名・堀越勸玄で東京・歌舞伎座に初お目見得。22年、八代目市川新之助として初舞台を踏む。
十三代目市川團十郎白猿襲名披露、八代目市川新之助初舞台 十月大歌舞伎 〔2024年10月〕26日まで、大阪松竹座。昼の部は、團十郎が5役を勤める「雷神不動北山櫻」。夜の部は「連獅子」のほかに「義経千本桜 鳥居前」「一條大蔵譚」「口上」。☎0570・000・489。
(2024年10月23日付 読売新聞夕刊より)
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