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2024.10.24

市川新之助 志願の試練 ― 襲名披露興行 最終公演

歌舞伎界の大名跡・市川團十郎白猿だんじゅうろうはくえんの長男・八代目市川新之助は、2年前にスタートした父の襲名披露興行で初舞台を踏み、家の芸「歌舞伎十八番」の「外郎売ういろううり」「毛抜けぬき」などを演じてきた。今月〔2024年10月〕、大阪松竹座で始まった最終公演では、長唄舞踊の大曲「連獅子」に初挑戦している。(編集委員 坂成美保)

父・市川團十郎白猿(右)との共演で「連獅子」に初挑戦した市川新之助ⓒ半沢健、松竹提供

大曲「連獅子」 父と「毛振り」共演

能「石橋しゃっきょう」を歌舞伎舞踊に移した「連獅子」は、獅子の子育ての物語。親獅子は獅子を谷底に突き落とし、自力ではい上がってくるのを見守る。芸の修業になぞらえて、多くの歌舞伎役者が親子で勤めてきた。

新之助は現在、11歳。全国各地を巡った襲名披露の2年間を「せりふと立ち回りが大好きなので毎日が楽しかった。2年がとても短く感じました」と振り返る。

稽古では、苦手意識があった舞踊に真っ向から挑んだ

100回以上勤めた「外郎売」では、爽やかな口跡で早口言葉の「言い立て」を朗々と響かせ、「毛抜」では豪快な見得みえを決め、大器を予感させた。

幼い頃から、繰り返し見てきた舞台映像がある。父の「連獅子」だ。「いつか父と一緒に勤めたい」との思いを温めてきた。志願して、襲名披露を締めくくる演目に選んだ。

長く赤い毛をかぶり、仔獅子の扮装ふんそうをした新之助ⓒ半沢健、松竹提供

稽古では「どちらかというと苦手」という舞踊に向き合った。見せ場は親子が共に、たてがみを振る「毛振り」。「父とイキが合わない。長い毛が重い。体力が続かない」。一歩ずつ課題を克服していった。

今月〔10月〕10日に初日を迎え、キレ抜群の踊りと勇壮な毛振りを披露。劇中の仔獅子さながらに、厳しい試練を乗り越え、喝采を浴びた。気迫に満ちた表情は、もう幼い子どもではなく、立派な役者の顔だった。

〔2024年〕9月に東京で開催された取材会には初めて1人で出席。2年間の襲名披露公演の間に身体も成長し、身長は1.47メートルになったⓒ松竹

いちかわ・しんのすけ 2013年、東京生まれ。15年、本名・堀越勸玄かんげんで東京・歌舞伎座に初お目見得めみえ。22年、八代目市川新之助として初舞台を踏む。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露、八代目市川新之助初舞台 十月大歌舞伎 〔2024年10月〕26日まで、大阪松竹座。昼の部は、團十郎が5役を勤める「雷神なるかみ不動北山ざくら」。夜の部は「連獅子」のほかに「義経千本桜 鳥居前」「一條大蔵ものがたり」「口上」。☎0570・000・489。 

(2024年10月23日付 読売新聞夕刊より)

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