人形浄瑠璃文楽の本拠地である大阪・国立文楽劇場は〔2024年〕4月に開場40年を迎える。今年は文楽界の大名跡・十一代目豊竹若太夫の襲名披露が行われ、開幕まで1年余りとなった大阪・関西万博に向けた動きも本格化する。国立劇場を運営する日本芸術文化振興会の国立文楽劇場担当理事として、昨年10月に着任した切替浩子氏に、劇場の課題や新たな取り組みについて聞いた。(編集委員 坂成美保)
日本芸術文化振興会 国立文楽劇場担当理事
切替浩子氏
――切替理事は総務企画部副部長、国立劇場営業部長を歴任されました。文楽との出会いは?
大学時代に演劇研究を専攻したのがきっかけで歌舞伎や文楽を観劇するようになりました。1983年に国立劇場職員として採用され、最初は客席案内係や場内アナウンスを担当し、後に広報宣伝や公演プログラムの作成、チケット販売にも携わりました。営業畑が長く、客席に近いところで仕事をしてきたので、お客様の目線を大事にした劇場運営を心がけたい。
国立文楽劇場では一幕を低料金で見られる「幕見席」も用意しています。若い世代や旅行者にも気軽に見ていただきたい。夏休みは、宙乗りなど、子どもが喜ぶ演出も計画しています。
――4月に豊竹呂太夫が祖父の名跡・豊竹若太夫を襲名します。
節目の年におめでたい話題です。襲名演目「和田合戦女舞鶴」では、上演が途絶えていた場面の復活も進めています。古典の復活は劇場の柱でもあり、後世に伝えていくつもりです。
――2025年4月には大阪・関西万博が開幕。文楽を紹介する好機ですね。
万博会場で本格的な文楽の上演はハードルが高いですが、文楽に興味を持ってもらえるような企画を立てて、万博期間中に国立文楽劇場公演に足を運んでもらえる工夫も考えます。
――今年3月にアニメーションの背景画を取り入れた「曽根崎心中」が東京で初演されます。画期的な取り組みですね。
東京で開催するアニメとの融合公演は、海外での上演を目指しています。コロナの影響で海外公演が途絶えていましたが、今年は何とか実現させたい。
歌舞伎は、役者の魅力が主体の演劇ですが、文楽ではドラマの本質がストレートに伝わってきます。太夫、三味線、人形遣いのイキがぴったり合う奇跡的なバランスの上に成り立っている。海外の観客に感動を与え、その効果が国内でさらに広がれば、と期待しています。
――後継者育成も重要です。
23年度は伝承者養成制度の応募者が集まりませんでしたが、24年度は、既に複数の応募や問い合わせがあり、開講を目指しています。伝承の現場にも時代の波が押し寄せています。昔ながらの長く厳しい修業のイメージも払拭していかないといけませんね。
(2024年1月24日付 読売新聞朝刊より)
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