日本舞踊の魅力の一つは、多彩な三味線音楽にある。情景や心情を織り込んだ「
京大阪で座敷舞として発展した上方舞の演奏には、地唄が使われる場合が多い。上方舞を「地唄舞」と呼ぶ由来でもある。
踊りの名手で、歌舞伎女形の人間国宝・坂東玉三郎は今月〔2024年1月〕、初春恒例の大阪松竹座公演で地唄舞に光を当てて、名曲「黒髪」「
複数の三味線弾きと唄い手、
江戸の長唄を地唄に移した「黒髪」は、 〽黒髪の結ぼれたる思ひをば――と唄い出され、女性が独り寝の寂しさを嘆く。目覚めると外は一面の雪。つややかな黒髪もいずれは白髪に変わる。降り積む年月の残酷さ、むなしさを象徴する。
「由縁の月」は、上方歌舞伎「吉田屋」で知られる、早世した遊女・夕霧と伊左衛門の悲恋が題材。別人に身請けされ、恋人に会えない遊女の哀切が、美しい旋律で奏でられ、随所に
玉三郎は「動きが少ない中で、音楽に乗って凝縮された舞の魅力を表現したい」と語る。その舞姿は、一幅の絵さながらに、秘めたドラマも感じさせる。
趣向を凝らした「お年玉」の一幕も用意されている。「天守物語」の一場面では、映像技術を駆使し、いずれも玉三郎演じる富姫と亀姫の“初共演”が実現した。玉三郎自身の箏曲演奏や唄も堪能できる。
芝居街の伝統を伝える大阪・道頓堀に100年続く大阪松竹座。公演では、玉三郎が劇場のバックステージや道頓堀の歴史を紹介する映像も流れる。にぎやかな初芝居も心弾むが、今年はしっとりと、心に染みいる地唄舞に酔い、迎春のひとときをかみしめたい。
(編集委員 坂成美保)
◇ 坂東玉三郎の大阪松竹座連続公演
「初春お年玉公演」は〔2024年1月〕14日まで。18~20日は、落語家・春風亭小朝とのステージ「はるのひととき」。小朝の語りと玉三郎の歌が響き合う「越路吹雪物語」、小朝の落語「芝浜」、玉三郎の地唄舞「雪」で構成。玉三郎は「小朝さんはスポンジみたいに、何でも吸収して受け入れてくれる方なので、僕が自由に演じていれば、どんどん導いていってくれます」と信頼を寄せる。〔1月〕26~28日のコンサート「星に願いを」では、「星」をテーマにした曲を選ぶ。
「学生さんを始め、色んな方に見ていただきたい」という玉三郎の発案により、「初春お年玉公演」には1500円のC席、「はるのひととき」とコンサートには2000円の4等席を設けた。(電)0570・000・489。
(2024年1月10日付 読売新聞夕刊より)
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