2021.12.17

【歌舞伎インタビュー】賑やかに今年の最後を締めくくって―「十二月大歌舞伎」尾上松緑さん

歌舞伎座(東京・東銀座)の「十二月大歌舞伎」(12月26日まで)の第三部で『吉野山』と『信濃路しなのじ紅葉もみじの鬼揃おにぞろい』に出演中の尾上松緑さん。歌舞伎三大名作のひとつ『義経千本桜』の一場面と、能楽の『紅葉狩』を下敷きに平成年間に作られた新作だ。好対照の二つの舞踊劇で、日本舞踊・藤間流の家元らしい見事な踊りを見せている。それぞれどんなことを考え、どんな工夫を凝らしているのだろうか。(事業局専門委員 田中聡)

おなじみの『吉野山』を新しい演出で

『吉野山』は『義経千本桜』の一場面。本名題は『道行みちゆき初音旅はつねのたび』という。源義経のもとに向かおうとする愛妾・静御前と彼女に付きそう佐藤忠信、ふたりの旅の物語。桜の花の下で繰り広げられる華やかな踊りだ。

――歌舞伎ファンにはおなじみの『吉野山』ですが、今回は普段とは違う演出での上演ですね。

松緑 歌舞伎舞踊では、義太夫と清元という2種類の音楽の掛け合いで上演されることが多いんですが、今回は音楽を義太夫のみにしました。もともとこちらの方が古い形なんですよ。(静と忠信の道行きを邪魔する道化敵の)早見藤太もでてこない。ご覧になったお客様から、「あそこはカットされたんですか」と聞かれたんですけど、そうじゃない。義太夫だけの時は、あの場面はないんです。

――今回、こういう形にしたのには、何か理由があるんですか。

松緑 上演時間のバランスは考えましたね。以前の歌舞伎座は昼夜2回興行だったんですが、コロナ禍後の現在は3回興行になっているじゃないですか。『吉野山』を掛け合いでやると45~50分かかるから、『信濃路紅葉鬼揃』と並べると少し長いんです。今回の形だとどこもカットせずに35分で上演できる。

やっぱり役者として、作品の一部分をカットして舞台にかけるようなことはなるべくしたくないですから。それに「掛け合い」では昨年、歌舞伎座で(今回も静を演じている中村)七之助さんがやっているんです。それとは違うバージョンでお見せしたい、という気持ちもありました。

「頼りがいのある」七之助さんと
撮影 青山謙太郎

――静と忠信が並んで絵面を作る「女雛男雛」の場面もない。やはり印象が違いますね。

松緑 そうですね。忠信の方は、途中で「屋島の合戦」での兄・継信の死の様子を語る「物語」の部分もありますし、掛け合いのときよりもある種無骨な感じです。衣裳も浅葱ではなく、黒にしています。

「掛け合い」と比べると、今回の演出では女形さんの比重が重いんですよ。特に前半は、七之助さんがほとんど一人で踊る構成になっています。……七之助さんは後輩なんですが、何というか、「頼りがいがある」女形なんです。女形にもいろいろあって、「守ってあげたい」と思うようなタイプもあるし、七之助さんや(中村)梅枝さんのような「頼りがいがある」タイプもある。……どちらがいい、ってことはないんですけどね。今回は「頼りがいがある」七之助さんが相手なんで、楽しく踊らせてもらっています。

――忠信というのは、実は静が持っている「初音の鼓」の皮になっている雌狐の子ども、つまり狐が化けたという存在ですよね。ただし、その正体は(見る方には分かっているんですが)静には分かっていない。人間なのか妖なのか、どんなバランスで踊っているんですか。例えば「人7、狐3」の割合とか。

松緑 出の部分とひっこみの部分は狐なんですが、途中は、ほとんどそれを意識しないで「人間」として踊っています。もちろん途中で、「初音の鼓が恋しい」という部分では、「狐」になっていますけど。「物語」の部分などは、兄を殺された忠信の気持ちになっていなければおかしいですから、そこは「人間」でないといけないですよね。割合でいうと、踊りの6割ぐらいの部分が「人間100%」、残りの4割を「狐100%」で踊っているという感じですかね。

――というのも、『信濃路紅葉鬼揃』では「山神」ですし、こちらは狐ですし、今回の2作はどちらも人間ではないな、と思いましてね(笑)

松緑 そう言われてみれば、そうですね。

玉三郎さんとの「信濃路紅葉鬼揃」  キビキビとした楷書の動き

信濃路の奥に棲む鬼女を退治するたいらの維茂これもち。紅葉狩の酒宴の中で繰り広げられる美しくも凄絶な物語は、舞踊劇『紅葉狩』として古くから演じられてきた。坂東玉三郎による『信濃路紅葉鬼揃』は能楽の『紅葉狩』の小書(特殊演出)である「鬼揃」を取り入れて、2007年に歌舞伎座で初演された。松緑さんが演じる山神は、物語の途中に登場し、激しい踊りを繰り広げる。

――『信濃路紅葉鬼揃』は3度目の上演。松緑さんは初役ですね。

松緑 玉三郎のお兄さんと相談して、過去2回の山神とはガラッと変えて、元々ある『紅葉狩』の山神と同じようにやってみよう、ということにしたんですよ。能がかりの前半は「幽玄の世界」なんですが、私の山神が登場してガラッと雰囲気が変わり、後半はいかにも歌舞伎という立ち回りになる。そういうギアチェンジをする役割があるんです。前半貯めたエネルギーを後半一気に爆発させる。そういうカタルシスにつながれば、と思っています。

――山神というのは、どういう存在でしょう。

松緑 子どものように見えるけど、八幡さまのお使いで神様ですからね。30年ぐらい前、初めてこの役をいただいた時に、(十二代目市川)團十郎のおじさんに、「山の神のイメージとしては『猿』かな」と言われたんですよ。

――孫悟空のようなエネルギーを爆発させるトリックスターというイメージですかね。

松緑 まあ、言われた当時は「え、猿」と思って、真意は分からなかったんですけどね(笑)。私も今年46歳になったんですが、あえて今回は少年っぽく、かわいく踊っています。神様だから何百年も生きているんだけど、いつまでも子どものような存在。キビキビとした楷書の動きで踊っています。

――忠信は骨太な大人のキャラクター、山神は子どものようにかわいく、正反対ですね。

松緑 そうですね。私としては好きな踊りを二つ踊れて、今月の舞台は楽しいですよ。コロナ禍がまだ収束せず、暗い世相が続いていますが、だからこそ1年の終わりは賑やかに締めくくりたい。……まあ、片方が桜で片方が紅葉、季節的にどうかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはちょっと勘弁していただいて、明るく楽しんで劇場から帰っていただければと思っています。

年明けは国立劇場「南総里見八犬伝」

――年が明けて、2022年は国立劇場の『南総里見八犬伝』(1月3日~27日)に出演されます。菊五郎劇団としては2015年に現行の形で取り上げ、松緑さんは3回目の犬飼いぬかい現八げんぱちですね。

松緑 武芸百般に通じたアクティブな男、いかにも頼りがいのある男という感じです。2019年に御園座で上演した時以外 、網乾あぼし左母二郎さもじろうと二役でやっているんですが、こちらは蛇のように冷血なヤツ。この二役のコントラストがうまく出せればいいですね。

歌舞伎座・十二月大歌舞伎のサイトはこちら https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/736

国立劇場・初春歌舞伎公演のサイトはこちら https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2021/42210327.html

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