2021.10.14

【歌舞伎インタビュー】「笑う」芝居をスケール雄大に 松本白鸚さん―歌舞伎座十月大歌舞伎

東京・東銀座の歌舞伎座で10月27日まで公演中の「十月大歌舞伎」。第二部で上演されている『時平しへい 七笑ななわらい 』は、「笑う」芝居である。客席の爆笑を誘う「笑い」の芝居ではない。嘲笑、冷笑、呵々大笑かかたいしょう ……場面に応じて役者が多様な「笑う芸」を見せる芝居なのである。この作品に初挑戦している松本白鸚さんに、上演するにあたっての工夫や心構えを聞いた。(事業局専門委員 田中聡)

『時平の七笑』藤原時平=松本白鸚 ⓒ松竹

『時平の七笑』は江戸中期の作者、並木五瓶の書いた通し狂言『天満宮菜種御供てんまんぐう なたねの ごくう 』の一幕。時は平安、歌舞伎3大名作のひとつ『菅原伝授手習鑑』と同じ時代が舞台である。謀反の容疑をかけられた右大臣・菅原道真。そこに現れたのが、白鸚さんの演じる左大臣・藤原時平。時平は、道真を擁護しようとするのだが……。

――上方歌舞伎の片岡我當さんがお得意にされていますが、東京ではあまりなじみのない芝居ですね。1982年に国立劇場で二世尾上松緑さんが通しで上演されていますが、それはご覧になっていますか。

白鸚 たぶん見ているとは思うんですが、はっきり覚えてはいません。ビデオが残っていたので、ずいぶん参考にはさせていただいています。今上演されているのは、明治時代に九代目(市川團十郎)が活歴風に演出を変えたものを基にしていて、(現在の十五世片岡仁左衛門さんの父親である)十三世仁左衛門のおじさんがおやりになったものを受け継いでいるものです。

――活歴というと、明治時代、九代目が「演劇改良運動」の中で行った芝居の改変ですね。史実に基づいて、リアルな演技・演出を行うという。今回は、それとはまた違った工夫をされているとか。

白鸚 (作者の)今井豊茂さんに協力してもらって、義太夫を入れてみることにしました。もともと江戸時代、並木五瓶の作品で通し狂言だったわけですから。時平の衣裳も「ぶっかえり」で変えるなどして、より時代物の狂言らしさを出す工夫をしてみました。

『時平の七笑』藤原時平=松本白鸚 ⓒ松竹
■スケール感にこだわって

時平の取りなしもむなしく、太宰府配流を命じられる道真。しかし実は、道真追い落としのすべては、時平による策略だった。本性を現した時平、思惑通りの展開に笑いをこらえきれないのだった。

――時平は、悪役中の悪役ですね

白鸚 一国をひっくり返してしまうような悪役ですからね。そういうスケール感をどのように出せるか、というのを考えました。「実は」と正体を現すところなどは、『関の扉』の大伴黒主とイメージが重なります。そういえば、歌舞伎ではないですが、私も出演した、山崎正和さんの戯曲『世阿弥』の中で、将軍足利義満が大笑する場面があるんですが、それも思い出しました。

『時平の七笑』 ⓒ松竹

――史実でも、時平は笑い方に特徴があったと言われているそうです。笑い方にはずいぶん工夫をされているようですね。

白鸚 「七笑」というくらいですから、七種類の笑い分けをしてみようと考えました。まず最初の所は、「サイレント笑い」とでも言うのでしょうか、声を出さずに笑い始める。続いて、「おほほほほ」という「公家笑い」。竹本(義太夫)に乗った笑いも見せます。最後の場面、呵々大笑する場面では、定式幕が引かれた後も、幕の裏でさらに笑っているという形になります。

――幕が引かれた後の笑い声は、この芝居の「名物」ですね。

白鸚 この芝居に関しては口伝が二つありまして、一つがその「幕が引かれた後も笑っていること」。もう一つが、「笑っているうちに、屋台を少し前にだしていくこと」。この二つはきちんと守っていこう、というのを今井さんと話し合いました。

――屋台を前に出す、ということは、その上に乗っている人物が大きく見えるということ。つまりクローズアップの効果ですね。笑っている時平を強調するという。

白鸚 時平という人は、われわれ庶民とはスケールが違う人物なんですね。この芝居では「笑う」という行為の中で、その存在感を強調する。そういう所が表現できればいいですね。

『時平の七笑』藤原時平=松本白鸚 ⓒ松竹
■世界でも珍しい「笑い分け」の芝居

――「泣く」「笑う」「怒る」、様々な感情が歌舞伎の舞台では表現されます。「笑う」という芝居も、有名なものがいくつかありますね。

白鸚 そうですね。『新薄雪物語しんうすゆきものがたり 』の「三人笑い」が有名でしょうか。『仮名手本忠臣蔵』の『六段目』、勘平が腹を切った後に笑います。

――どれも「苦い笑い」ばかりですが、印象に残る場面です。

白鸚 ただ、今回の芝居みたいな「笑い分け」というのは、世界中の芝居を見渡しても、なかなかないと思うんですよ。そういう作品を80歳近くになって手がけることができて、まあ、4日間の稽古で一つの芝居を練り上げるのですから大変ではあるんですが、役者冥利に尽きることだと思っています。

公式サイトはこちら  https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/728

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