歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」(10月4~27日)で第二部の「
――『祇園恋づくし』は7月に大阪・松竹座で上演したばかり。この時も鴈治郎さんと幸四郎さんの共演でしたね。
鴈治郎 25年前(1997年9月)に、うちの父(四世坂田藤十郎)と勘三郎さん(十八世中村勘三郎)とで京都の南座で上演して、ボクも手代の役で出ているんですが、「面白い芝居だなあ」と思っていたんです。10年ぐらい前からかなあ、(松本)幸四郎さんに「こういうのをやりたいね」って話をしたら、「兄さん、面白いですね」って言ってくれて。上演する機会を探っていたら、先に(弟の中村)扇雀と(中村)勘九郎くんのコンビで(2015年8月の歌舞伎座で)上演されちゃった(笑)。まあ、でも、この時は、勘九郎くんは女方はやらなかったのでね。
この芝居は、主役のふたりが、それぞれに立役と女方を替ることにも妙味があるので、そういう形でやるのならいいかなあ、と思い直して、松竹座で上演したんです。そうしたら、すぐに「歌舞伎座でも」という話を頂いて、嬉しいですね。
――松竹座と歌舞伎座の違いってありますか。
鴈治郎 松竹座と歌舞伎座では、劇場の大きさが違いますから。『祇園恋づくし』みたいなお芝居は、声にならないぐらいの息……たとえば、誰かが話をしている時に、ふんふんと相づちを打っているような呼吸ですね……が感じられるぐらいの舞台と客席の近さが欲しいんですが、さすがに歌舞伎座は「少しお客さんとの距離が遠いなあ」という感じがありますね。祇園が舞台のお話ですから、東京での上演には「ちょっとしたアウェイ感」もあります。まあ、上演を重ねていくうちに、こなれてくとは思っているんですけどね。
『祇園恋づくし』の基になっているのは、1926年7月、歌舞伎座で上演された『
祇園祭 禮人 山鉾 』(作・竹柴金作)。六世尾上菊五郎と二世實川延若の初顔合わせにあたって、古典落語の「祇園会 」を題材にして書き下ろされたものだった。この台本を宇野信夫が改訂したものが、1957年4月の歌舞伎座で、十七世中村勘三郎・二世中村鴈治郎のコンビで上演されたバージョン。さらにこれを97年の南座公演の際に、小幡欣治の脚本で作り直したのが、『祇園恋づくし』である。落語「祇園会」は京と江戸、それぞれの「お国自慢」が眼目。それをこの芝居でも引き継いでいる。鴈治郎さんが話すとおり、主役ふたりがそれぞれ男女二役を早替りで演じるのも、大きな見どころだ。
――松竹座での公演の際、改めて工夫したところはあったんですか。
鴈治郎 25年前の南座公演(97年の公演)のビデオを見直してみると、結構、小道具とか手直しした方がいいところがあったので、そういうところは直しました。ただ、まあ、新作も同然の作品なので、別に「型」があるわけではない。(脚本の)小幡先生は新劇系の方。演出の大場(正昭)さんからも、「脚本にないアドリブは入れないようにしてください」と言われているので、それは守るようにしているつもりです。
――今回は、京都の茶道具屋の主人とその妻、という二役です。六月の歌舞伎座『ふるあめりかに袖はぬらさじ』では、物語の舞台となる岩亀楼の主人役でした。そういう商家の主人のような役で、いるだけで軽みやおかしみ、何とも言えない「味」を出していらっしゃいますね。
鴈治郎 そう言っていただけるとありがたいですね(笑)。祖父(二世中村鴈治郎)がそういう役者でした。その場にいるだけで、存在感がある。「スター」として生まれて「スター」として世を去った父(四世坂田藤十郎)とは全く違ったタイプでした。祖父は一時期、歌舞伎界を離れ、映画俳優として活躍していたのですが、その経験が生きたのでしょう、歌舞伎に戻ってからの芝居が凄かった。そういう祖父の芝居には、正直あこがれるところがあります。
四代目中村鴈治郎さんは、1959年生まれ。父は近松門左衛門作品の上演で有名な四世坂田藤十郎さんで、母は元宝塚歌劇団の娘役であり、参議院議長を務めた政治家でもある扇千景さんだ。弟も同じく歌舞伎俳優の中村扇雀さん。
鴈治郎家は、「頬かむりの中に日本一の顔」とまで言われた二枚目役者・初世鴈治郎(1860~1935)以来、上方歌舞伎を支え続ける名門のひとつ。四代目鴈治郎さんの長男、中村壱太郎さんも歌舞伎俳優として活躍している。
――上方色の強い今回の芝居ですが、鴈治郎さんとしては、やはり「上方歌舞伎」に対する想いはありますか。
鴈治郎 それはやっぱりありますよ。「上方のにおい」を後世に残していくのは大変なことだとは思いますが、(片岡)愛之助さんや(中村)亀鶴さんといった若い人たちが頑張っているので、先行きが暗いとは思っていません。
松竹座も南座も、もっと歌舞伎公演を増やしてもらえるよう、われわれ俳優も頑張らないといけないですね。
歌舞伎座・芸術祭十月大歌舞伎のサイトはこちら https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/794
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