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2023.11.24

三味線 精魂込め一撥70年-竹沢団七、12月米寿に 文楽で現役最年長

文楽界の現役最年長で、三味線奏者の竹沢団七が来月〔2023年12月〕、米寿(88歳)を迎える。入門から70年。端正でつややかなその音色は深い余韻を残す。枯淡の芸にますます磨きがかかる団七に、これまでの道のりを振り返ってもらった。(大阪編集委員・坂成美保)

「何事にものんきでくよくよしない性格が健康長寿の支えです」と語る竹沢団七=上田尚紀撮影

「今も青春 死ぬまで修業続く」 

今月、大阪・国立文楽劇場で近松門左衛門の「冥途めいどの飛脚・道行みちゆき相合かご」に出演している。罪人となった主人公・忠兵衛と遊女・梅川うめがわが逃げ落ちていく場面。みぞれが雪に変わり、死を覚悟した男女のつやめく情、荒涼とした風景が浮かび上がる。

名古屋市生まれ。娘義太夫の演者だった母、義太夫節好きの父の影響で、幼い頃から文楽に親しんだ。12歳の時に初めて文楽を見て、たちまち太棹ふとざお三味線のとりこに。母の三味線をおもちゃ代わりにつま弾き、聞き覚えた義太夫節のメロディーをハーモニカで吹いた。

師匠の教え

文楽三味線は「模様を弾く」といわれる。模様とは、作品に描かれた情景や人物の心情のこと。「三味線は、語るんだよ」。師匠の人間国宝・竹沢弥七の教えを、団七は守り続けている。

気品に満ちた舞台姿。精魂込めて「模様を弾く」(国立文楽劇場提供)

1953年、17歳で弥七に入門する。内弟子時代から「一音」に懸ける執念をたたき込まれた。例えば「酒屋」のヒロイン・お園のクドキ(心情吐露)。〈今頃は半七つぁん〉の後に「チーン」の一撥ひとばちが入る。「精魂込めて一撥を弾け、と教わった。寂しい夕暮れ、帰らぬ夫を待ちわびる若妻の孤独を凝縮させるんです」

床本(台本)を書き写し、人物の心情や情景を考える。詞章に書かれていない行間も、自分なりの解釈で埋めていく。減衰していく音の余韻、音と音のの表現は「音のないところを弾く」高度な技術だ。

81年に豪快な時代物の語り手・竹本津太夫とコンビを組み、亡くなるまでの6年間舞台をともにする。20歳年上の人間国宝は謙虚な人柄が魅力で、「わてと一緒に勉強しまひょな」と巧みにリードしてくれた。

時代劇にも

団七は、ユーモアを交えたトークも巧みで講演依頼も多く、歌舞伎や日本舞踊との他流試合も経験した。近松を主人公にした2016年放送のNHK時代劇「ちかえもん」では、作曲や義太夫節指導だけでなく、自らかつらを着けて三味線弾きの役で出演した。

年賀状には毎年「生涯青春」と記す。「舞台で三味線を弾くことが、ただただ楽しい。何歳になっても『芸を究めた』なんて境地にはなりません。今も青春。死ぬまで修業が続きます」

◇ たけざわ・だんしち

1935年12月8日生まれ。53年、十代竹沢弥七に入門、竹沢団二郎を名乗る。翌年、初舞台。81年に団七と改名、四代竹本津太夫とコンビを組んだ。2010年度文化庁長官表彰。

(2023年11月22日付 読売新聞朝刊より)

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