2022.1.19

【歌舞伎インタビュー】久しぶりの「宙乗り」、懐かしい景色でした―「寿初春大歌舞伎」市川猿之助さん

『義経千本桜 川連法眼館の場』忠信実は源九郎狐=市川猿之助(ⓒ松竹)

歌舞伎座(東京・東銀座)の「寿初春大歌舞伎」(1月27日まで)、第三部で上演中の『義経千本桜 川連法眼館かわつらほうげんやかたの場』は、「きり」の通称で知られる古典歌舞伎の人気作品だ。「狐忠信」を演じているのは、四代目市川猿之助さん。伯父である三代目猿之助(現・猿翁)さんの「三代猿之助四十八撰」のひとつでもある沢瀉屋の「お家芸」、歌舞伎座では5年半ぶりの上演だ。(事業局専門委員 田中聡)

2年半ぶりの「宙乗り」で完全復帰!

――猿之助さんにとって「四の切」は200回以上も上演を重ねている演目。歌舞伎座では久しぶりになる今回では、これも久しぶりに「宙乗り」をやられていますね。

猿之助 最後に飛んだのが、コロナ禍が始まる前の2019年の8月、『東海道中膝栗毛』でしたから、2年半ぶりですね。長いこと道具を使っていなかったので、ちゃんと動くのか、やっぱり少し怖かったですよ(笑)。(上空から見た客席は)「懐かしいな」という感じ。これまで感染対策で客席に向かう宙乗りができなかったので、専門家の先生からお許しが出たことで「ようやくできたなあ」という感慨はありましたね。

「四の切」自体が、歌舞伎座では久しぶり(2016年6月以来)。(2017年に新橋演舞場で『ワンピース』を上演中に)ケガをして以来、初めての「狐忠信」なので、自分の中では「これでができて(歌舞伎役者として)完全復帰」という思いもあります。

『義経千本桜』の中でも人気の場面、「四の切」。武将・佐藤忠信に化けた狐が活躍するこの作品は、宙乗りだけでなく、欄間渡り、欄間抜けなど、様々なアクロバティックな演出がある。吉野山中、旧知の川連法眼の館に身を隠している源義経のもとに、ホンモノの忠信が訪れるところから始まる物語は、人間と狐、“ふたりの忠信”をどう演じるかがひとつのポイントとなる。

『義経千本桜 川連法眼館の場』佐藤忠信=市川猿之助(ⓒ松竹)

――何度も演じていらっしゃる「四の切」ですが、どういうところが重要だと思っていらっしゃいますか。

猿之助 確かに体力的にもハードな演目なのですが、そこは不思議と大丈夫なんですよ。数を重ねているうちにコツが分かってきたのでしょうね、欄間抜けなども余計な力をいれないでできるようになった。

むしろ難しいのは、前半の「人間」の忠信です。舞台上にいる時間は短いのですが、そこをしっかり見せておかないと、後半の「狐忠信」が生きてこない。義経のもとに忠信が二人やって来る。いったいどういうことなのか。そういうミステリー的な話ですから。ケレンの多い舞台なんですが、それが物語の中心ではない。あくまでも「芝居」が中心。いつもそう思って演じています。

「人間じゃない存在」を演じること
『義経千本桜 川連法眼館の場』忠信実は源九郎狐=市川猿之助(ⓒ松竹)

――「狐忠信」を演じるにあたって、気を付けていることはあるのですか。『紅葉狩』の山神もそうですが、猿之助さんは昔から「人間以外のモノ」を演じるのが上手い印象がありますが。

猿之助 いろいろな人からそういうことを言われますけどねえ。自分では「特別なこと」をしているつもりはないんですよ。もともと沢瀉屋の芸は鬼婆だったり幽霊だったり、人間じゃない存在を演じることが多いんですが、あまり意識して役作りをしたりはしない。

ただ、この「狐忠信」についてだけは、猿翁の伯父から「狐らしさを大事にしなさい」と言われています。……学生時代、北海道に行って、狐の牧場を訪ねたことがあって、そこで見た狐の姿が印象に残っています。エサを出してもなかなか寄ってこなくて、視線を外したすきにパッとそれをさらっていく。人間に自分の息づかいを悟らせない。決して人に懐かない。野性を失わないそういう姿を、演じる時に意識するようにしています。

他の人にできないものを~3月は約20年ぶりの『新・三国志』

――ここのところ、毎月のように猿翁さんの「四十八撰」の演目を歌舞伎座でかけていらっしゃいます。それについてはどんな事を考えていますか。コロナ禍でなかなか先が見通せない状況ですが、二月以降の歌舞伎座で何か考えていらっしゃることはありますか。

猿之助 沢瀉屋の芸は、ボクにしかできないものですから。他の人にはできないものをやる、歌舞伎座のメニューを豊かにするためにも、それは重要な事だと思っています。

ただ、今の歌舞伎座は三部制で二部制だった昔の歌舞伎座に比べて、一部一部の上演時間が短い。そういう制約の中で、どういう芝居を演目に選ぶか、時間的に全部上演するのが難しい時に、どこの場面をカットするか、そのあたりがいつも頭を悩ませるところです。「四十八撰」には通し狂言も多いですからね。

そんな沢瀉屋の芝居の中から、三月の歌舞伎座では約20年ぶりに『新・三国志』を上演しようと思っています。「スーパー歌舞伎」も最初の『ヤマトタケル』から36年。もうすっかり定着したと思いますので、あえて今回はそれを謳わないで上演してみようと思っています。

歌舞伎座・寿初春大歌舞伎のサイトはこちら https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/738

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