役者が空中を飛ぶ「
明治の文明開化に派生した演劇改良運動は、歌舞伎から、荒唐無稽な要素を退け、高尚化を求めた。運動自体は失敗に終わるが、明治以降に、名だたる小説家らが執筆した「新歌舞伎」が、文学性や心理描写に優れているのも、その一端であろう。視覚的な奇抜さが売りの「けれん」は影を潜めていった。
戦後、「けれん」の復活と江戸歌舞伎への回帰を旗印に「スーパー歌舞伎」を創始し、ヒット作を次々送り出したのが三代目市川猿之助、9月13日に亡くなった
文学的な「新歌舞伎」に対するアンチテーゼとして、元来歌舞伎の要素である「歌」「舞」の豊かさ、娯楽性、庶民性に立ち返り、スペクタクル満載の演出と現代口語に近いせりふで、次代への扉を開いた。
猿翁の名作集「三代猿之助四十八撰」の48番目の演目「新・
12世紀の中国。梁山泊に集った豪傑たちの頭領・
隼人、
「道を開いていこうじゃねぇか」と、仲間を鼓舞する晁蓋のせりふには、歌舞伎界の異端児、あるいは風雲児と呼ばれ、時には向かい風にさらされながら、ひたすら疾走してきた猿翁の闘魂が映るようだった。
(編集委員 坂成美保)
◆新・水滸伝◆ 2008年初演。北宋時代の中国。天然の
共演はほかに市川猿弥、浅野和之ら。作・演出は横内謙介、演出は杉原邦生。スーパーバイザーを猿翁が務めた。
9月24日まで、南座。19日は休演日。18、21両日の午前の部終演後には出演者によるトークショーを予定している。(電)0570・000・489。
(2023年9月13日付け 読売新聞夕刊大阪版より。一部改定しました)
公演の詳細はこちら → https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/822
0%