チャーリー・チャップリンの四男のユージーン・チャップリンさんが11日、映画「街の灯」を基にした歌舞伎「蝙蝠の安さん」を東京・国立劇場で観劇した。公演後には主演の松本幸四郎さんと面会。「父のスピリットがそこにありました」と絶賛し、幸四郎さんと固く握手を交わした。その様子をリポートする。
この日は、松本白鸚さん主演の「近江源氏先陣館―盛綱陣屋」に続いて「蝙蝠の安さん」が上演され、ユージーンさんは両方を観劇。「安さん」の上演前には場内アナウンスでユージーンさんの来場が紹介され、客席からの拍手に立ち上がって手を振って応えた。「安さん」の劇中では、幸四郎さんが賭け相撲のしこ名を「ユージーンの友人の蝙蝠男」にするなど、出演者らがユージーンさんの名前を取り入れたアドリブを連発し、場内を沸かせた。
ユージーンさんと幸四郎さんは、終演後舞台上で面会した。ユージーンさんは、「本当に美しかったし、感動しました。ヨーロッパの文化が日本の文化に非常にうまく移し替えられており、想像以上でした」とねぎらうと、長年、チャップリンのファンとして舞台の実現を目指してきた幸四郎さんは「こんな日が来るとは……夢のまた夢でした。演じる側になり、作品のすばらしさ、チャップリンの役者としてのすばらしさを改めて感じました」と感極まった様子で返した。
ユージーンさんはこれまで舞台監督などの仕事もしてきたといい、「立派なセットの舞台を作ることに憧れてきたので、今回は私の夢をかなえてもらった気分になりました。場面転換の方法や、酔っ払いの男が川へ身を投げようとするのを止めるシーンは好きですね」と公演を振り返り、「幸四郎さんの演技からは確かに父を感じました。(目が見えるようになった花売り娘から)花をもらうラストシーンは父そのもので、ゾクゾクするほど感動しました」と笑顔を浮かべた。
幸四郎さんは、「自分が演じたかった役をできたことへの幸せ、その思いだけで今月は舞台に立っています。チャップリンの世界観、精神やこだわりをこの作品に注ぎ込めればと、がんばっています。今後も上演される歌舞伎作品にしていきたい」。ユージーンさんは「世界中で楽しんでいただける舞台だと確信しています」とできばえに太鼓判を押した。
(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)
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