「TSUMUGU Gallery」でお楽しみいただける高精細画像データは、キヤノンと京都文化協会が展開する「綴プロジェクト」より、作品撮影や画像提供などで技術協力いただいています。ここでは、「日本の文化を未来へ受け継ぎたい」という紡ぐプロジェクトと共通の想いを持つ「綴プロジェクト」について紹介します。
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「TSUMUGU Gallery」でお楽しみいただける高精細画像データは、キヤノンと京都文化協会が展開する「綴プロジェクト」より、作品撮影や画像提供などで技術協力いただいています。ここでは、「日本の文化を未来へ受け継ぎたい」という紡ぐプロジェクトと共通の想いを持つ「綴プロジェクト」について紹介します。
日本の文化財の中には、傷みやすいために鑑賞の機会が限られている作品や、海外に渡ってしまった作品が数多くあります。「もっと多くの人に日本の文化財の美しさや文化的価値に触れ、身近に感じてもらいたい」――。そうした想いから、キヤノンと京都文化協会が共同で展開する「綴プロジェクト」(正式名称:文化財未来継承プロジェクト)が発足しました。
同社が持つ最先端のデジタル技術と京都の伝統工芸の技を融合することで、日本古来の貴重な文化財の高精細複製品を制作し、オリジナル文化財はよりよい環境で保存しながら、高精細複製品を活用することで日本の文化財を未来に継承する取り組みです。
2007年のスタート以来、国内外の国宝や重要文化財クラスの屏風・襖絵・絵巻物など56点(2021年1月現在)の高精細複製品を制作し、寺社や博物館、自治体などに寄贈しました。寄贈された高精細複製品は、各地で一般公開が行われ、たくさんの人に親しまれています。展示ケース越しではなく、間近でじっくりと鑑賞することができたり、映像を投影して作品の世界に入り込むような体験型展示ができたり、幅広く活用できるのが大きな魅力です。
最新のデジタル技術と京都の伝統工芸の技を駆使し、細部にまでこだわり抜いて完成した高精細複製品は、「ガラスケースの中で並べたらオリジナル文化財と見分けがつかない」と日本美術の専門家にも評価されている。
最新のデジタルカメラを使用し、文化財を複数枚に分けて撮影します。合成し、一枚の大きな画像にします。
独自開発のカラーマッチングシステムを用いて、画像の色をオリジナルの色に合わせます。その場で印刷し、見比べながら調整します。
専用に研究・開発された和紙や絹地に、大判インクジェットプリンターで印刷し、繊細な濃淡、陰影が生み出す立体感を表現します。
日本の文化財の大きな特徴である金箔・金泥・雲母(きら)は京都の伝統工芸士が一点ずつ手作業で再現します。
京都の表具師が「襖」「屏風」「絵巻物」の形に細部まで正確に作りこみます。
博物館などに展示される複製品には、オリジナルに忠実な再現が求められる一方、制作に関しては撮影時間や色合わせの回数を減らし、オリジナル文化財への負担を極小化する必要があります。これらの相反する課題に対して「綴プロジェクト」では、最新のデジタル技術を駆使することで、その両立に挑み続けています。
2020年に制作した国宝「松林図屏風」の複製制作では、解像度600dpi、総画素数52億画素という高精細データを取得し、オリジナルに肉迫する高精細複製品を完成させました。その高精細画像データは「TSUMUGU Gallery」でもお楽しみいただけます。
さらに「紡ぐプロジェクト」では、ウェブサイトの「TSUMUGU Gallery」に高精細撮影データを提供し、新たな活用策として、見たい箇所を細部までクローズアップする「デジタル鑑賞」を提案しています。
例えば、九州国立博物館所蔵の「唐船・南蛮船図屏風」の高精細撮影データでは、和紙の繊維や金の凹凸まで確認することができ、描かれた人たちの表情や服装など細かい描写をじっくりと楽しむことができます。
筆の運びや絵の具の重なり、描かれている素材などまで見ることができる「TSUMUGU Gallery」のデジタル鑑賞。展覧会場で実物を見るのとはひと味違う、画面いっぱいに広がる美の世界を存分に味わってください。
琳派の重宝、いや絵画の至宝と言ってもいいだろう。俵屋宗達が17世紀前半に描いた「風神雷神図屏風」(二曲一双)。建仁寺所蔵の国宝で、現在は京都国立博物館に寄託されている。「私淑」によって流派が断続的に継承された琳派。右隻に風袋を持った風神、左隻に太鼓を背負った雷神が描かれたこの屏風絵も18世紀初めに尾形光琳が模写し、それを19世紀前半に酒井抱一が写した。琳派展や国宝展などの折、極まれに3作が一堂に展示されることがあるが、やはり、宗達の描いた風神雷神が圧倒的な迫力で迫ってくる。
圧倒的な臨場感で迫る
「雷神の目力」「風神の黒雲」
「風神雷神図屏風」建仁寺所蔵(国宝)
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そんな日本を代表する貴重な文化財を国内外の多くの人に親しんでもらおうと、綴プロジェクトでは、2011年に高精細複製品を制作して建仁寺に奉納。その後、カメラの解像度や印刷の精度などの技術が格段に進歩したことで、金箔の質感やたらし込みの微妙なグラデーションなど、オリジナルと寸分違わぬ再現が可能となり、リアルな鑑賞体験を提供できる好機と考え、複製品のヴァージョンアップに取りかかった。
完成した複製品は2021年11月から建仁寺本坊に展示され、間近な場所からガラスケースなどの遮蔽物なしにじっくりと鑑賞することができる。
ミラーレスカメラ「EOS R5」で撮影し、総画素数約42億画素の高解像度データの取得を実現。
撮影データは、キヤノンが独自に開発したカラーマッチングシステムによって自動で色補正され、現場に持ち込んだインクジェットプリンターで出力。
それを、その場で実物と比較し、研究員や所蔵元の担当者 に目視で確認してもらい、微妙な色調整を重ねていく。
撮影では文化財への負担を極力少なくするため、強い光を当てずに短時間で行うことが重要で、このように1度の撮影で高精度な色合わせを行えるシステムは評価が高い。 その後、金箔などをのせた状態で行う2回目の色合わせを行い、6~8か月の時間をかけてじっくりと制作していく。
オリジナルに限りなく忠実な高精細複製品の制作は、キヤノンの入力・画像処理・出力の高度な技術と京都の伝統工芸の技を融合することで、初めて可能となった。例えば、屏風を覆う金箔は京都西陣の伝統工芸士の技が施され 、経年変化が作品にもたらす風合いが忠実に再現されている。
一方、金地に墨と銀泥の濃淡で描かれている黒雲の部分など、表現が難しいと思われる部分についても、最新の撮影システムにより解像度720dpiの高精細なデータを取得することができた。それにより、雷神の目力がより際立ち、金地に墨の濃淡で描かれた黒雲は、旧作では表現できなかった墨の階調を繊細に表現している。
解像度300dpi⇒720dpiになり、顔料の粒子や細線などの再現性が向上。雷神のまなざしがより鮮明に。
旧作では見えなかった薄い墨で描かれた部分や墨の濃淡の繊細なグラデーションも再現
「本物かと思った」「宗達と同じ時代の空気を吸っているような錯覚を覚えた」……。建仁寺で新しい複製品を目にした拝観者からは、そんな称賛の声が数多く寄せられる。建仁寺内務部長の浅野俊道さんも「解像度が上がったことで、細線がくっきりと表現でき、雷神様の目元がより強くなった印象を受けた」と話す。屏風に描かれた黒雲も、オリジナルを見た時のような奥行きさえ感じられるようになったという。
屏風絵や襖絵は和紙に岩絵の具で描かれていることもあって本来脆弱で、貴重な作品は文化財保護法などで定められた期間しか公開できない。一般の人が実物を目にする機会は限られ、ガラス越しでの対面を余儀なくされている。そもそも海外に渡った作品の中には、門外不出のため日本で見られない作品もある。「オリジナルに限りなく忠実な複製品を活用することで、多くの人に『風神雷神図屏風』をはじめとした貴重な文化財の価値を身近に感じてもらいたい」と浅野さんも話している。
奉納された複製品を見る建仁寺管長・小堀泰巖猊下
建仁寺内務部長の浅野俊道さん