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2025.12.4

八代目「菊五郎」芸の精神体現 - 南座・顔見世かおみせで襲名披露

「玉兎」に登場する狸の手の型をみせる(左から)六代目尾上菊之助、八代目尾上菊五郎=吉野拓也撮影

師走の京都の風物詩、南座の顔見世かおみせ興行で、今年〔2025年〕は八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助親子が襲名披露を行う。初代菊五郎の生誕地・京都で、歴代菊五郎の名演が語り継がれる長唄舞踊「鷺娘さぎむすめ」と「弁天娘(女男白浪めおのしらなみ(弁天小僧)」に挑む菊五郎、清元舞踊「玉兎たまうさぎ」と「寿曽我対面」を披露する菊之助に抱負を聞いた。
(編集委員 坂成美保)

踊りの名手で「鷺娘」を得意とした六代目菊五郎には、大正時代に来日してバレエ「瀕死ひんしの白鳥」を踊ったロシアのバレリーナ、アンナ・パブロワと交流した逸話が残る。

パブロワの舞台に感銘を受けた六代目が「あなたの白鳥は息をしていないように見えるが、どう演じているのか?」と尋ねると、パブロワは「舞台で死んでもいいつもりで幕切れを迎えています」と答え、六代目を感動させたという。「鷺娘」のラストで鷺の精が息絶える演出は、バレエの影響下に考案された。

「互いの脚の筋肉を見せ合ったという話も伝わっています。バレエと歌舞伎、西洋と東洋の違いはあっても、芸への向き合い方、芸術の精神は共通で、ふたりが目指す高みは同じだった。その精神を受け継ぎ、現代のお客様と共有したい」と八代目は語る。

また、「弁天小僧」は、明治の名優・五代目菊五郎が19歳で初演した作品で、役名も「弁天小僧菊之助」となっている音羽屋代々の家の芸。八代目の父・七代目も当たり役としてきた。八代目が南座で勤めるのは、1996年の五代目菊之助襲名披露以来だ。

「キセルなど小道具の扱い、着物の裾の形など、すべてが絵面になるよう決まりごとがたくさんある。それを流れるように動いて見せるのが大変難しい。歌舞伎ならではの様式美、七五調のせりふのリズムを大事に勤めます」

菊之助 見せ場堂々「楽しませる」

一方の六代目菊之助は、父が演じる「弁天小僧」を「いつか自分もやってみたい一番好きな役」と憧れのまなざしで見つめてきた。今回挑戦する「玉兎」は、月で餅つきをする兎をモチーフにした舞踊で、民話「カチカチ山」に出てくるおじいさん、おばあさん、兎、たぬきの踊り分けが見せ場になる。

「踊りは大好きです。狸の手の型をできるようになりました。身体の線が見える衣装なので、うまく動かないと、きれいな線がお客様に見えない。形が決まる大事な場面は、鏡を見て繰り返し練習します」

襲名から半年、毎月のように舞台を勤め、体力も培われてきた。「幼い頃は緊張でいっぱいいっぱいでしたが、最近は舞台からお客様の反応、表情がよく見える。いつも、どうやってお客様を楽しませようかと考えています」

中村梅玉ら豪華な顔合わせによる「対面」では、終盤、花道から出て、宝刀「友切丸」を持参する菊若丸を演じる。「大先輩方が勢ぞろいされている中に登場する大事なお役。緊張に打ち勝って、おなかから声を出して響かせ、せりふをかっこよく言いたい」と稽古に余念がない。

菊之助の「玉兎」
八代目菊五郎の「弁天小僧」
八代目菊五郎の「鷺娘」(いずれも松竹提供)

八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露
吉例顔見世興行

12月1~25日、京都・南座。昼の部は「醍醐の花見」「一條大蔵ものがたり」「玉兎」「鷺娘」「俊寛」。夜の部は「対面」「口上」「弁天小僧」「三人形」。出演はほかに片岡仁左衛門、中村歌六、鴈治郎、松本幸四郎、片岡愛之助、中村勘九郎、七之助ら。

〈瀕死の白鳥〉 20世紀初頭の「バレエ・リュス」を代表するダンサーで振付家のミハイル・フォーキンがパブロワのために振り付けたバレエ作品。作曲家サンサーンスの組曲「動物の謝肉祭」の「白鳥」に合わせて、もがきながら息絶える白鳥を描く。1922年にパブロワは日本でも上演し、大反響を巻き起こした。40年代以降はマイヤ・プリセツカヤが得意演目とした。

(2025年11月27日付 読売新聞夕刊より)

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