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2025.5.27

【工芸の郷から】有松・鳴海絞ありまつ なるみしぼり — 色の再現 挑戦いとわず(名古屋市)

間口の広い木造瓦ぶきの主屋や、格子状に漆喰しっくいが塗られた土蔵が、東海道沿いに立ち並ぶ。古い街並みが残る有松(名古屋市緑区)の初夏を彩る「有松絞りまつり」は、朝顔や藤を思わせる絞り染めを施した浴衣姿の女性たちでにぎわう。

起源は江戸初期。農作に乏しい村の産業として考案された。木綿を絞り染めした手ぬぐいは、旅人たちの土産物として評判となり、歌川広重の「東海道五十三次」にも描かれた。近くの宿場・鳴海宿でも売られ、「有松・鳴海しぼり」として国の伝統的工芸品に指定されている。

バッグを手にする三浦さん。「有松絞りまつり」では「早恒染色」で「流し染め」が体験できる=伊藤紘二撮影

「絞り」は糸で縛った部分が染まらない仕組みで、模様を染める。蜘蛛くもの巣や鹿のまだら模様のような文様が有名だ。

一つの工程をその道を極めた職人が、たすきをつなぐように受け渡していく。図案を考え、生地に型紙を載せて、絵を刷る。布を糸でくくる。染色。糸を外す。凹凸のある生地を仕上げる。

藍色、ピンク、黄。浴衣の季節を前に、工房「早恒はやつね染色」では、染めの作業が進んでいた。鍋の中の液体に浸すのが一般的だが、伝統工芸士の三浦鈴世さん(77)が得意とするのが「流し染め」だ。細長い台の上に広げた生地に、染料が入ったじょうろを傾けて液体をかけていく。

じょうろを使い染料を流し込む

一枚の浴衣でも、花はピンク、葉は緑と色を変えられる。「染め屋は『色』が全て」。頼まれた色をどう再現するか。ピンクと一口にいっても、調合次第で千差万別。同じ速度でじょうろを動かさなければ、濃淡も出てしまう。一方で、染料を含んで重くなった生地を運ぶなど、体力勝負な面も。そんな中、脱水機の音に負けない楽しそうな声が響く。高江洲たかえす真紀さん(54)、内田弥生さん(52)、増田薫さん(48)。おしゃべりはにぎやかだが、仕事は手際よく、見事に息が合う。三姉妹のようだ。

「流し染め」する職人たち

三浦さんは大黒柱の夫が亡くなった後、趣味で絞り教室に通う女性に声をかけた。好奇心旺盛な高江洲さんは二つ返事で“弟子入り”。12年ほどになる。有松絞商工協同組合は、1970年代に約35社あった組合員が16社に減少。後継者不足が顕著だが、三浦さんは新たな力を借り、のれんを守っている。

3人は質の高いものを効率的に染める挑戦をいとわない。内田さんは「(三浦さんが)やり方を尊重してくれるおかげ」と語り、三浦さんは「息が合っているからこそ、いいものができるんです」と目を細める。

今年のまつりは〔2025年〕6月7、8日。反物、Tシャツ、ポーチなどが並ぶほか、染め体験もできる。有松に一足早い夏が訪れる。

(文化部 武田実沙子)

(2025年4月30日付 読売新聞朝刊より)

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