日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2025.5.10

【修理リポート】重要文化財「山水図」伊藤若冲筆(大阪・西福寺蔵)― 表装を新調、隠れていた絵も見えるように

修理の説明を受けながら山水図を確認する榎原清了住職(右、大阪府豊中市で)

「紡ぐプロジェクト」の助成対象として修理を進めていた国宝4件、重要文化財4件が、2024年度の作業を終えて、所蔵元などに戻った。今月〔2025年5月〕と来月の2回にわたり、修理の詳細をリポートする。

江戸時代中期の絵師・伊藤若冲じゃくちゅうの水墨画で、重要文化財の「紙本墨画 山水図」が、京都国立博物館の文化財保存修理所で修理を終えた。約1年半ぶりに所蔵者の西福寺(大阪府豊中市)へ戻された。

なだらかな山並みや円形の葉、2隻の舟などが変化に富んだ濃淡で配されている。若冲の晩年の山水画様式を検討するうえで、極めて大きな意義を持つ。

巻かれた状態で保管され、画面下部には折れが目立った。紙焼けやシミ、虫食いの跡も確認され、2023年11月から修理していた。担当した「松鶴堂」(京都市東山区)の技師によると、裏打ち紙3枚を全て剥がし、折れて弱くなった部分を補修し、表面を滑らかにした。修理前は本紙の周囲に表装裂ひょうそうぎれが重なり、絵が3ミリほど隠れていた。表装裂も新調し、若冲の描いた画面がすべて見えるようになった。

紡ぐプロジェクトで修理され、昨年3月に寺に戻った重文「蓮池図れんちず」とともに、〔2025年〕11月に公開する予定。榎原清了住職(76)は「この作品が一番傷んでおり、修理してもらえて絵全体として引きしまった。きれいな姿をファンの方々に見てもらいたい」と話していた。

(2025年5月4日付 読売新聞朝刊より)

紡ぐプロジェクトとは

国宝や重要文化財、皇室ゆかりの名品、伝統文化、技術などを保存、継承していく官民連携の取り組み。文化庁、宮内庁、読売新聞社が2018年に開始した。展覧会の収益の一部や、企業からの協賛金などを活用し、文化財の修理を助成し永続的な「保存・修理・公開」のサイクル構築を目指す。これらの文化財の魅力や修理作業の経過に加えて、次世代に伝える伝統芸能、工芸の技術などを、紙面やサイトを通じて国内外へ情報発信している。

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