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2025.1.8

豊竹若太夫 恋模様巧みに ― 新版歌祭文

大阪・国立文楽劇場の初春文楽公演では、「お染久松物」の決定版として知られる「新版歌祭文うたざいもん」が上演されている。襲名からまもなく1年を迎える豊竹若太夫が、「野崎村の段」のクライマックス「切場きりば」を語っている。

没落した武家の子・久松は、野崎村の久作きゅうさくに育てられ、大坂の油屋で奉公人になる。しかし、金銭トラブルに巻き込まれ、野崎村に戻り、久作の後妻の子・おみつと祝言を挙げることになる。そこへ久松の子を身ごもった油屋の娘・お染がやってくる。

「悲劇的なラストなのに、三味線の曲調は華やか。恋愛模様を描きながらユーモアもあって人気の作品です」と語る豊竹若太夫=大塚直樹撮影

実際に起きた心中事件が題材で、江戸時代に数多くの改作が書かれた。若太夫はこの作品の作者・近松半二の作劇の妙に感嘆する。

「当時流行した『野崎参り』の風俗を描き込み、お染の恋のライバル・おみつという人物を創作したところにセンスが光ります」

2人の娘の語り分けや、久作が恋人同士に別離を説得するせりふが見せ場。「都会育ちのお染は、高音を意識し、おみつは田舎の娘の素朴さを出します。久作のせりふは、間や音程、スピードの緩急をしっかり守り、娘の幸せを願う正直な人物として演じます」

昨年〔2024年〕4月、祖父の名跡を襲名。江戸期の豊竹座の創始者につながる大名跡を57年ぶりに復活させた。「文楽の神様から大きな役割を託された思い。先輩方から習ったことを、きちんと伝える使命を感じます」

〔2025年1月〕26日まで。「新版歌祭文」は第1部。第2部は「仮名手本忠臣蔵」の八、九段目。第3部は「本朝廿四孝にじゅうしこう」。☎ 0570・07・9900。

(2025年1月8日付 読売新聞夕刊より)

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