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2025.1.8

孝・玉 自然とイキが合う ― 大阪松竹座 初春特別公演

人形浄瑠璃を歌舞伎化した「義太夫狂言」から、明治以降の新歌舞伎まで、幅広い芸域を持つ人間国宝の片岡仁左衛門が、〔2025年1月〕11日に開幕する大阪松竹座の初春特別公演で坂東玉三郎と共演する。半世紀にわたってファンを魅了してきた名コンビが演じるのは「お染久松物」として知られる鶴屋南北作「於染久松色読販おそめひさまつうきなのよみうり」と清元舞踊「神田祭」。松竹が創業130周年を迎えた新年の意気込みや作品の見どころを聞いた。(編集委員 坂成美保)

仁左衛門 80歳「気持ちは30年前のまま」 

「於染久松色読販」で演じる小悪党「鬼門きもん喜兵衛きへえ」は、自身の転機になった役でもある。初役は孝夫時代の1971年。玉三郎の父・守田勘弥が後押しした。二枚目役が多かった仁左衛門にとって悪役への初挑戦だった。

「まだ20歳代。やったことない役柄だから最初は嫌でね。喜の字屋のおじさん(勘弥)が『やれ』と。その後、演じる度にせりふを少し変えて自分なりにつくっていった。喜兵衛がきっかけで役の幅が広がり、おじさんに感謝しています」

昨年〔2024年〕は東京・歌舞伎座や関西の舞台への出演で、多忙な日々を過ごした。「もっと芝居に出たいですね」とますます意欲を見せる=金沢修撮影

この作品が出発点となって2人の人気は急上昇。長身で清潔感あふれるコンビは「孝・玉」と呼ばれ、新たなファンを開拓した。サイン会には行列ができ、「孝・玉」で見たい南北作品のリクエストも寄せられた。それから半世紀、不動の人気で興行を支えている。

「神田祭」で演じる鳶頭とびがしらでは江戸の粋を体現し、玉三郎演じる恋人の芸者との熱愛ぶり、漂う色気に観客は酔いしれる。「正月らしい明るい雰囲気で、踊りというより芝居をしている感覚です。お互い好き勝手やっていても彼とは自然に芝居のイキが合う」

好調な客入りは「怖い」とも。「いつまで続くだろうか。だんだん年を取ってお客様に『あの2人もそろそろダメだね』なんて言われるのが怖くてね」

80歳になって体力の衰えを感じる時もある。「気持ちと身体のギャップが30年はあるね。気持ちは30年前のまま。今はどうにか身体がついてきてくれる。もっと舞台に出たい気持ちもありますよ」

4月には大阪・関西万博が開幕。インバウンドを見込み、解説や通訳付きの初心者向けサービスも拡充されつつある。「歌舞伎のレパートリーの広さ、深さを理解していただくため、間口をなるべく広く、わかりやすく伝える工夫をしたい。初めてのお客様がご覧になる作品は特に重要です」

後進育成にも力を注ぎ、年末の顔見世かおみせでは若手の指導に時間を割いた。「先人が築いた芸を次世代に引き継ぐ。私自身が先輩から受けた指導のまま、崩さずに。若手にはお客様をきつける魅力ある芝居を目指してほしい」と期待をかける。

〈お染久松物〉1710年に大坂で油屋の娘・お染と使用人・久松が心中した事件を劇化した作品群。発生直後から、歌舞伎や人形浄瑠璃として相次ぎ上演され、紀海音作「おそめ久松たもとの白しぼり」、菅専助作「染模様妹背門松そめもよういもせのかどまつ」などがある。近松半二作「新版歌祭文うたざいもん」(1780年初演)は、おみつを登場させ、三角関係を描いた。江戸後期の1813年には、七役早替わりの趣向を取り入れた鶴屋南北の歌舞伎「於染久松色読販」が初演された。

◇ 松竹創業130周年 片岡仁左衛門 坂東玉三郎初春特別公演 〔2025年1月〕11~26日、大阪松竹座。「於染久松色読販」から「土手のお六、鬼門の喜兵衛」の場と清元舞踊「神田祭」を上演。☎ 0570・000・489。

(2025年1月8日付 読売新聞夕刊より)

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