2025年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業には、能登半島地震の被災地、石川県から初めて申請があった。重要文化財「不動明王坐像」(法住寺蔵)だ。滋賀県から申請があった重要文化財「石山寺多宝塔柱絵」(石山寺蔵)は、国宝建造物に描かれた絵画を現地の建物内で修理する、紡ぐプロジェクトとしては初の取り組みとなる。貴重な文化財を未来に伝えるため、困難なケースであっても最善の修理方法を検討し、現代の最高水準の技術で作業を進めていく。
国宝の石山寺多宝塔は鎌倉時代初期の1194年(建久5年)に建立された。建築年代が判明する多宝塔としては日本最古。寺伝では源頼朝の寄進とされる。その多宝塔初層(1階)内部には「四天柱」と呼ばれる4本の円柱があり、創建当初の作とみられる仏像群が描かれている。
円柱は高さ約228センチ、直径約30センチ。円柱の天地を4段に区切り、東西南北の各面に1体ずつ仏像を描いた。当初は計54体が描かれたとみられるが、各柱とも絵の具層が剥がれ、現状では約20体の仏像が確認できるのみという。内訳は大日如来をはじめとする金剛界五仏、四波羅蜜菩薩、十六大菩薩などが描かれていたと推測され、これらに五大明王を描き加えている。
作風を見ると、各仏像の理知的な表情の中にも優美な院政期仏画の名残をとどめているとされ、平安から鎌倉時代に至る過渡期の仏画の高い水準を示している。鎌倉時代の建造物に描かれた数少ない現存作例として貴重なものだ。
しかし、顔料層に亀裂が発生し、一部では剥落が進むなど保存状態は危機的な状況。緊急的に剥落止めなどの保存修理を行うことが必要だ。工期は2年間で、多宝塔内での剥落止めを中心とした作業となる。
鷲尾龍華座主(37)は「多宝塔も四天柱の柱絵も、これまで各時代の最新の技術を駆使し、しっかりと修理をしてくださっているからこそ、創建当初の姿を私たちは見ることができる。このことに感謝するとともに、私たちも今、最適な修理を行い、未来へつないでいくことが大事だと思う」と話す。柱絵は創建当初の姿に戻すものではないが、「現状で十分にお姿が見えるものもあり、修理を通じて『ここに(仏画が)ちゃんと残っている』ということを、多くの人に知っていただけたらうれしい」と語った。
(2025年1月5日付 読売新聞朝刊より)
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