大松明に赤々と燃え盛る炎が長い帯になる吉田の火祭り(山梨)、市街地を取り巻く山々に文字や形が浮かび上がる京都五山送り火、傘から舞い落ちる華麗な火の粉が印象的なからかさ万灯(茨城)――。一口に「火祭り」と言っても由緒も形態も様々だ。地元住民はもちろん、観光客にとっても心躍る季節の風物詩となっている。一方、各地で担い手不足が深刻に。祭りの材料確保など継承に向けた課題も多い。石川県の能登半島各地に伝わるキリコ祭りは、元日の地震により大きな影響を受けた。
「火の芸術」とも言われる花火。今年の夏も、祭りなどの一環として各地で花火大会が開催された。
中でも秋田県大仙市の全国花火競技大会・大曲の花火は、全国の花火師たちが自らの技を競い合う日本最高峰の花火大会だ。人口7万人余りの同市には毎年、全国から60万人以上が見物に訪れる。同市経済産業部の花火担当者によると、市内にある神社の祭典の余興として1910年から始まり、すでに100年以上の歴史があるという。
大曲の花火などが始まる以前、夜空を彩る打ち上げ花火はいつ頃に日本で誕生したのか。正確な記録は残っていないが、おおむね江戸時代半ば頃からと言われている。
打ち上げ花火は死者の慰霊や悪疫退散の意味もあるとされるが、第一の目的は娯楽、つまり見て楽しむものだ。見物客に楽しんでもらうために花火師たちは日々技を競い、製作に励んでいる。このため、打ち上げ花火は現状において国が文化財に指定したり、あるいは映像記録を作成したりして学術的な保存・活用に努めるべきものとしては、みなされていないようだ。
ちなみに、埼玉県秩父市に伝わる打ち上げ花火「秩父吉田の龍勢」は2018年に国の重要無形民俗文化財に指定された。ただし、日中に白煙を噴きながら上空に舞い上がり、落下傘や唐傘、花火玉などの仕掛けを空中で繰り広げるもので、夜空に大輪を咲かせる打ち上げ花火とは趣が異なる。
(2024年9月7日付 読売新聞朝刊より)
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