南房総に自生する
千葉県南房総市の「うやま工房」では盛夏を前に、2代目の宇山まゆみ代表(62)が仕上げ作業に追われている。原料となる竹は11~12月に伐採し、適度な長さに切って皮をむき、水洗いして磨き天日に干す。平面になる部分の竹を48~64本程度に割いて骨組みを作り糸で編む。「弓竹」を使って骨を広げ、紙や布を張る。出来上がったうちわの柄の部分は、材料の女竹そのままに丸柄となるのが特徴だ。
つい紙や布の色柄に目が行ってしまうが、宇山さんは「肝心なのは骨組み。よくしなる女竹を使うことが、柔らかな風を生む最大のコツ」と話す。一般的なうちわと比べると確かにしなり具合が違う。バタバタあおがなくとも、ゆったり動かせばふんわり風が起こる印象だ。
房州うちわの起こりは、うちわ生産地であった江戸に特産の竹材を出荷していたことに始まるという。房州でのうちわ生産は1877年、現在の館山市那古で始まった。当初は骨組みだけを作り、東京で「江戸うちわ」として仕上げていた。1923年の関東大震災で被災した東京のうちわ問屋が船形町(現在の館山市船形)に移住したことから、完成品までを一貫生産するようになった。
涼をとるため、また火おこしのための実用品として、大正末期から昭和初期の最盛期は年間700万~800万本ほど生産されたという。南房総は古くから漁業が盛んで、留守宅を守る女性たちが内職として分業で生産した。
扇風機やエアコン、ガスコンロの普及で、現在では生産量は年間で数万本程度にとどまる。職人の高齢化と後継者不足により分業制も崩れた。三大うちわの一角とはいえ、市場占有率では丸亀うちわに大きく水をあけられている。
担い手育成のため房州うちわ振興協議会は2014年度から「従事者入門講座」を始め、上級者向けの「伝習会」も実施している。
これからの季節、うちわを片手に花火などを見物するのも一興だろう。求める際は手に取って風を吟味し、お気に入りの一本を選びたい。
(文化部 竹内和佳子)
(2024年6月26日付 読売新聞朝刊より)
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