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2024.8.23

【伝統文化を子どもたちへ4】鋳物・ポケモン箸置き作ったよ

手のひらのスマートフォン一つで、何でも体験でき、手に入れることができる。現代の子どもたちは、そう錯覚していないだろうか。本来は、手や体を動かし、五感を総動員してこそ、本当の感動が得られるはず。その本質が詰まった伝統芸能や伝統工芸に、生き生きと取り組む子どもたちの姿を追った。

仕上がりに歓声「思ったより重い」

「ポケットモンスター(ポケモン)」を通して伝統工芸の魅力を知ってもらおうと、鋳物の産地・富山県高岡市の老舗メーカー「能作」は、本社でポケモンの箸置きを作る鋳物製作体験を〔2024年〕9月30日まで行っている。

夏休みに、「ポケモン」の鋳物製作体験を楽しむ親子

江戸時代初期に加賀藩2代藩主の前田利長が、河内鋳物師の流れをくむ7人の職人を移住させたことが、高岡鋳物の始まりとされている。

1916年創業の能作は、ドラえもんやハローキティなど人気キャラクターのすず製の鋳物を作ってきたが、ポケモンと協力した鋳物製作体験は今回が初めて。能作千春社長は「子どもたちに職人の技を感じて、ものづくりの背景を知ってもらいたい」と、狙いを話す。

鋳物の製作体験をする親子

参加者は、4種類のポケモン(リザードン、サンド、メタモン、チリーン)からデザインを選び、伝統技法「生型なまがた鋳造法」で作っていく。

製作体験は1日8回。7月30日午前11時15分の回には、約20人の親子が参加した。子どもたちが、四角い木枠の中にポケモンの箸置きの種型を置き、砂を詰めて押し固めた。「ここにまだ隙間あるね」などと講師の職人に教えてもらいながら、楽しそうに作業を進めていた。

できあがったポケモンの箸置きに満足そうな子どもたち
鋳物製作体験で作れるポケモンの一匹、メタモンの箸置き

できあがった砂型に職人が溶けた錫を流し込み、丸いポケモンの箸置きが姿を現すと、子どもたちは歓声を上げた。高岡市の奥村亮太君(7)は「おもしろかった。思ったより重いね」と言って、満足そうにリザードンの箸置きを見つめた。

講師を務めた仕上げ職人の中森菜々実さん(31)は一昨年、東京から工場見学に訪れたのがきっかけで職人になった。中森さんは「こうした体験を通して、将来、職人を目指す子が出てくれるとうれしい」と話した。

桝本佳子「リザードン/信楽壷」2022年 個人蔵 ©2024 Pokémon. ©1995-2024 Nintendo/ Creatures Inc./GAME FREAK inc. TM, Ⓡ, and character names are trademarks of Nintendo. ©桝本佳子 撮影:斎城卓
9月9日まで工芸展

プロの工芸作家がポケモンの世界観を表現した作品を堪能できるのは、企画展「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」だ。静岡県熱海市のMOA美術館で〔2024年〕9月9日まで開かれている。

(2024年8月17日付 読売新聞朝刊より)

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