歌舞伎役者は通常、座頭として出演する舞台の演出家も兼ねる。中でも、女形の最高峰で人間国宝の坂東玉三郎の演出術はかねてより注目されていた。歌舞伎作品のみならず、吉永小百合主演映画「外科室」「夢の女」の監督として映像美を極め、近年は現代劇でもその手腕を余すことなく発揮している。
最新の演出舞台「星列車で行こう」も玉三郎流の美学に貫かれている。シンプルな装置に映える繊細な照明、一見バラバラにも思える既存楽曲をミュージカル仕立てに再構成して統一感を持たせ、若い俳優たちの演技力、歌唱力を引き出している。
脚本を手がけたのは作家・真山仁。玉三郎が補綴を兼ねた。「日常の鬱屈から解放されたい」。青春期に誰もが抱く葛藤と夢を、3人の俳優がみずみずしい演技と歌で表現した。太郎(影山拓也)、次郎(松田悟志)、五郎(松村龍之介)の3人は車掌(石井一孝)の案内で行き先の分からない「星列車」に乗り込む。「将来」「追憶」と名付けられた駅を巡る旅が始まる。
歌舞伎俳優になる夢を閉ざされた五郎、拝金主義にからめとられた次郎、「自分とは何か」を探し求める太郎……。次第に3人の過去や直面する困難が明らかになっていく。
堀内孝雄の「家を出てゆきたい」、浜田省吾の「MONEY」、ビートルズの「レット・イット・ビー」などを劇中歌としてアレンジ。玉三郎自身が作詞を手がけたモーツァルトのアリアも登場する。書き下ろし曲ではないにもかかわらず、歌詞が人物の心情に寄り添い、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」など原曲とは別の曲のように新鮮に響いた。
幕開き、駅構内を遠近法で捉えた装置に、刻々と変化する照明のグラデーションが映え、影絵のような世界が広がる。闇が訪れ、客席天井や壁にまで設置した無数の小型電球が点灯すると、劇場全体に星が降っているような美しい光景が広がる。
幼い頃からプラネタリムが大好きで通ったという玉三郎。音楽が流れ、無数の星が浮かんだ宇宙に包まれる感覚は、きっと演出作にも反映されているのだろう。
1幕・2幕をそれぞれ、きっちり45分に収める技も見事で、回り舞台を駆使し、長椅子を演者たちが並び替える場面転換やステージングにも無駄がない。全編が引き締まった印象で、終幕後の余韻を残した。
(読売新聞編集委員 坂成美保)
「星列車で行こう」は〔2024年〕8月19日まで京都・南座で上演中。23日から26日までは名古屋・御園座でも上演される。
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