日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2024.5.2

工芸品 デジタルで本物の証明

デジタル技術を使って、工芸作品が本物であることを証明し、海外を含む流通を促進する取り組みが始まる。蒔絵まきえの人間国宝で日本工芸会副理事長の室瀬和美さんは、「我々が作ったものの価値を、安心して次の世代までつなげていく手段になりうる」と歓迎している。

取り組みを行うのは、「ARTerrace(アーテラス)」(本社・東京、藤野周作社長)。船舶投資ファンド「アンカー・シップ・パートナーズ」のグループ会社が出資し、今年2月に設立された。アンカー社は世界を周航する客船「飛鳥2」を運航する「郵船クルーズ」の主要株主として、船内で工芸作品の展示販売を行っている。

ARTerraceのサイトのトップページ
作品情報を改ざん困難な技術で記録

アーテラス社は、人間国宝などの著名作家約50人と協力し、工芸品の寸法や特徴を高精度3Dスキャナーでデータ化した。それらを含む作品情報を、ブロックチェーンと呼ばれるインターネット上の技術で改ざんや複製が困難な状態にして記録し、半永久的に本物であることを証明できる仕組みを整えた。

近年、アートの世界では、ブロックチェーンを使ったデジタル資産の取引が盛んになっている。デジタルアートだけでなく、リアルな作品でもデジタル証明書を介すれば、いつでも世界中と取引することができる。

サイトで展示販売される工芸品
サイト開設 流通促進図る

同社が〔2024年4月〕24日に開設するサイトでは、100点の作品がデジタル証明書付きで展示販売される。サイト上での転売もスムーズに行え、購入者履歴も分かるようになる。藤野社長は「サイトが安定稼働したら、海外通貨にも対応する。所有者が購入リストを披露することも可能で、所有者に対して作品を買いたいとアピールできるようにもする」と、流通を促す複数の仕組みを強調する。

室瀬さんは、「日本で美術作品は、親から子、孫へと家の中で伝えられてきたが、家族が個の単位になってきている中、第三者に渡る時に安心の担保が必要になる」と、時代の変化に対応した取り組みの必要性を説く。また、「日本では、作品を入れる外箱の書き付けが真正性を証明する文化が続いてきたが、海外に対してはもう一つの証明が加わればより安心できる」と強調する。

約50年間、漆芸に取り組んできた室瀬さんの元には、若い頃に手がけた作品の購入者の子息が訪ねてくることがあり、その際室瀬さんは自分の作品であることを証明し、その来歴を語って聞かせるという。しかし、作品は作家の死後も残り続けるため、本人による証言や専門家の鑑定がなくても客観性が担保できる仕組みが重要となる。

日本工芸史を専門とする内田篤呉・MOA美術館長は、「モネの作品に番号が付いているようなもので、作家にとっても購入者にとっても有用な取り組みだ。作品が将来的に価値を増すことにもなり、こうした動きがより一般化していけばいい」と話している。

(文化部 清川仁)

(2024年4月24日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事