様々な色の木を寄せ集めて美しい幾何学模様を作り出す「箱根寄木細工」は、高低差があって樹木の種類が豊富な箱根山系の特色を生かした工芸品だ。東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)の往路の優勝トロフィーでも知られている。
江戸時代後期、箱根の宿場町、畑宿(神奈川県箱根町)の石川仁兵衛が始めたとされる。当初からの技法「ヅク貼り」は、種板(大きな文様板)をかんなで0.15~0.2ミリの薄さに削ってシート状にしたものを、小箱やたんす、お盆などに化粧材として貼っていく。後に種板をそのままくりぬいてお盆や茶筒などを作る技法「ムク作り」が考案された。
市松、八角麻の葉、菱万字など伝統模様は約60種類。わずかなズレでも全体の模様を崩してしまうので正確性が求められ、基本の模様を習得するだけでも10年かかると言われている。
箱根湯本駅からバスで約15分の製造直売店「浜松屋」では、創始者の子孫で7代目の石川一郎さん(69)が、ひし形や三角形に削られた棒状の木を寄せていって、最小単位の模様となる部材を作っていた。接着剤を塗る刷毛さばきも、ヒモを縛る手さばきも流れるようにスムーズだ。
「同じものばかり作っていてもつまらないからね」。職人歴40年以上の石川さんは、そう言って色や配置を素早く変えてみせた。すると、明るい印象の模様に。「組み合わせは無限にある。自分で考えて模様を複雑にしていくのが好きなんです」
寄木細工の職人には、挑戦する気持ちが最も大切だという。伝統の技を守るだけでは、時代に取り残され廃れてしまうと考えるからだ。西陣織の帯に織り込んだり、スマートフォンケースや財布、草履、ギターに貼ったり――。共同制作を積極的に行ってきた。
先代から約35年間、作業風景を常時公開しているのもこだわりの一つだ。「実際に見てもらって、どうやって作るのか理解してもらうことが一番だから。お客さんとの会話は励みになる」。外国人客も増えてきている。新しいことに挑戦するヒントをもらえる予感がしている。
(文化部 森田睦)
(2024年2月28日付 読売新聞朝刊より)
0%