日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2023.10.5

【第17回「読売あをによし賞」】〈保存・修復〉「玉鋼」を唯一生産 たたら製鉄指揮 木原明さん(島根県)

炉のそばで製鉄技術について語る木原さん

文化遺産の保存・継承の功績をたたえる「第17回読売あをによし賞」の受賞者が決まった。今年 〔2023年〕 から二つの部門で本賞を選定し、応募件数は51件。「保存・修復」部門は、日本刀の制作に欠かせない「たたら製鉄」の技術を守る木原明さん(87)(島根県奥出雲町)が選ばれた。「継承・発展」部門は、約300年の歴史がある神楽を受け継ぐ古河こが神楽保存会(高橋博会長、茨城県古河市)が受賞する。表彰式は11月3日に大阪市内で開催する。

【保存・修復】

木原明 さん 87(島根県奥出雲町)

たたら製鉄は砂鉄と木炭を粘土製の炉で燃やし、丈夫な「玉鋼たまはがね」を生み出す。日本刀の制作に欠かせない原料で、全国の刀鍛冶に供給しているのは島根県奥出雲町だけ。たたら製鉄の操業責任者は「村下むらげ」と呼ばれ、木原さんが全国で唯一だ。「誇りを持って技術の保存に取り組んできたのでありがたい」と受賞を喜ぶ。

たたら製鉄は古墳時代に始まったとされ、戦後は一時途絶えた。1977年に「日本美術刀剣保存協会」(日刀保にっとうほ)が同県の日立金属安来やすぎ工場(現・プロテリアル安来製作所)の協力を得て復活させ、「日刀保たたら」と命名した。現在制作されている日本刀の8割程度は、この玉鋼を使っているとみられる。木原さんは同工場で製鉄に従事し、86年に村下となった。

木原さん(手前)が砂鉄を投入し炎が上がる炉=プロテリアル安来製作所提供

たたらの操業は毎年1~2月に行う。1回の操業を一代ひとよと呼び、作業は3昼夜にわたる。30分おきに砂鉄と木炭を炉に投入し続け、底にたまる鉄の塊「けら」を大きくしていく。一代で使う砂鉄は約10トン、木炭は約12トン。ケラは約3トンになり、そのうち玉鋼は約2トン、最高級のものはうち100~200キロしか出来ない。

「経験と勘がすべて」の重責

木原さんは日中の作業にのみあたる。以前は3昼夜不眠で作業の指揮にあたった。炉から噴き出す炎の色や勢い、炉内の状況を見極め、投入する砂鉄の量などを指示する。砂鉄が適量で、炉内の温度を保てないと良い玉鋼は出来ないといい、「経験と勘がすべて」と言い切る。後進の育成にも努め、村下を目指す40歳代~60歳代の5人を指導する。

不純物が少ない玉鋼は、茶道具の茶釜や文化財修理用のくぎにも使われる。木原さんは「ここでしか生産できないので重責だが、たたらに携われて非常に名誉。技術、体力、精神力を兼ね備えた良い村下も育成したい」と力を込めた。

■ 選考委員講評

池坊専好・華道家元池坊次期家元 「『保存・修復』『継承・発展』という新しい視点で、伝統的な取り組みを評価できた」

園田直子・国立民族学博物館教授 「両部門とも候補のレベルが高かった。今後の展開が楽しみだ」

中西進・国際日本文化研究センター名誉教授 「伝統を踏まえつつ明日を切り開く文化が、両部門から生まれることに期待したい」

三輪嘉六・NPO法人文化財保存支援機構理事長 「たたら製鉄がないと伝統的な日本刀の制作技術を発揮できず、実績は大きい」

室瀬和美・日本工芸会副理事長 「部門の新設により、評価の幅を広げられた。保存と未来につなぐ活動で、文化財はより生きてくる」

湯山賢一・東大寺ミュージアム館長 「地域、社会に根付く伝統文化を継承する神楽保存会に光を当てられたことに意味がある」

二河伊知郎・読売新聞大阪本社執行役員編集局長 「全国で多様な文化が息づき、継承されていることを改めて実感した」

▽ 主催=読売新聞社

▽ 特別協力=一般社団法人文化財保存修復学会

▽ 後援=文化庁、大阪府教育委員会、独立行政法人国立文化財機構、公益財団法人文化財保護・芸術研究助成財団、読売テレビ

(2023年10月1日付 読売新聞朝刊より)

継承・発展 古河神楽保存会

Share

0%

関連記事