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2023.3.1

【工芸の郷から】新風取り込み 輝くガラス ― 江戸切子(東京)

2002年に国の伝統的工芸品に指定された江戸切子は日本を代表するカットガラスだ。江戸後期の天保5年(1834年)に江戸大伝馬町のビードロ屋・加賀屋久兵衛が手掛けた切子細工が始まりとされる。

堀口切子で制作された江戸切子のグラス(東京都江戸川区で)

グラインダーを使ってガラスの表面に様々な幾何学文様を彫り込む。日本の伝統工芸というイメージが強いが、ルーツはヨーロッパにある。ボヘミアガラスなど西欧の高度なカット技術を手本に、日本の職人が工夫を重ねた。魚子ななこや麻の葉など様々な伝統文様も取り入れ、江戸の粋を刻んできた。

とはいえ、江戸切子は文様やガラスの色彩によって定義されるわけではない。江戸切子協同組合によると、江戸切子とは、主に回転工具を用いて手作業で加工され、江東区を中心とする関東一円で生産されるガラス製品を指すという。幅広く定義して制作の自由度を高めることで、常に新風を取り込む狙いがある。

伝統的工芸品に指定され知名度は上がったが、近年、周りの状況は厳しさを増している。組合に加盟する工房は1963年に176を数えたが、研磨作業の機械化や職人の高齢化で現在は47にまで減った。広報の清水祐一郎さん(清水硝子常務)は「産業としての厚みが減っている。上流には(ガラスの)生地屋さんもおり、ある程度の生産規模が維持されなければ産業として回らない」と危機感を募らせる。

江戸切子の付け台の制作に取り組む堀口徹社長

こうした中で期待を集めるのが、グラスという固定観念に縛られずに江戸切子の可能性を広げる仕事だ。2008年に堀口切子を創業した伝統工芸士の堀口徹社長は、産地=大消費地・東京という地の利を生かして、ザ・リッツ・カールトン東京の日本料理店の照明や都内有名すし店の付け台なども作ってきた。東京らしい伝統工芸を取り入れ、高付加価値化を図る需要は多い。堀口社長は「江戸切子は伝統工芸でありながら産業でもある。小さな革新を積み重ねるからこそ生き残り、結果的に伝統になる」と考えている。若手育成にも注力し、今春からは従業員を2人増やして6人体制で制作する。

欧州ガラス工芸への憧れから始まり、時代の波にもまれながらもしたたかに生き抜いてきた江戸切子。伝統工芸としては「新参者」という立ち位置を生かし、「他の伝統工芸や日本文化から柔軟に学ぶ姿勢を今後も大切にしたい」(清水さん)という。

(文化部 竹内和佳子)

(2023年2月22日付 読売新聞朝刊より)

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