工芸の分野は、国が重要無形文化財に指定する伝統の技法で制作するものから日本各地で継承されてきた実用品まで幅広い。日本の工芸は、作り手の後継者不足、生活スタイルの変化による需要減などの課題を抱えながら、新しい形や使い方で海外でも高い評価を得ている。伝統的な技法、素材を用いて、現代アートの作品を手がける作家の活躍もめざましい。ここに紹介する4人の作品を見ると、独創性に驚かされるに違いない。春には4人が出品する工芸の展覧会が開催される。未来を目指す工芸に、新しい日本の美を感じてみたい。
薄暗い作業場を訪ねると、江戸小紋の制作に黙々と打ち込んでいた。型紙の上から
「制作過程で最も難しい作業です」
生地と一色だけの染色で文様を描く江戸小紋は江戸時代に武士の
曽祖父、祖父、父が重要無形文化財保持者(人間国宝)という染色職人の家に生まれた。家業を継ぐ気持ちはなかった。大学進学の条件として3か月間制作を手伝うように父に言われた。
「雑用ではなく、すぐに『型付け』に取りかかるよう言われました。作業がどんどん面白くなりました。今思えば江戸小紋の奥深さ、素晴らしさに気づくきっかけでした」
卒業と同時に染色職人に。現在は代々受け継いだ伝統を基に、自分ならではの作品制作にも取り組む。「トランプ」「象」「
「一日一日小さな発見を重ね、仕事の面白さを感じるなかで未来につながる作品を創り出したい」――その言葉に気負いはなかった。
1982年、東京都生まれ。2008年、東京造形大卒。17年、公募展「日本伝統工芸展」で日本工芸会奨励賞。
(2023年2月5日付 読売新聞朝刊より)
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