この春、世界各地の優れた職人と、ものづくりの知恵などを紹介する「ホモ・ファベール展」がイタリア・ベネチアで開かれ、日本から
蒔絵 や竹工芸、染織など12人の重要無形文化財保持者(人間国宝)の作品が出品されました。海外では、アニメーションなど日本の文化が「クール(格好いい)」と人気を得ていますが、人間国宝による伝統工芸の技が一堂に出品されるのは初めてで、日本の新たな魅力が現地の人たちを魅了しました。守り継がれた伝統工芸の技と美がどう評価されたか、現地からのリポートを交えて特集します。
日本の第一級の伝統工芸品を展示した企画展「12 Stone Garden」では、連日多くの来場者が見入っていた。
会場は、白い大きな大理石の上に広々と作品が並べられ、日本庭園を歩くような感覚だ。作品はショーケースで覆わず、間近に鑑賞でき、数センチの距離からスマートフォンで撮影し、細部の模様まで保存する来場者もいた。
欧州では、日本の絵や建築はおなじみだが、工芸品を見るのは初めてという人が多いようだ。その一人、グラフィックデザイナーのアンジェラ・プスコルデロングさん(35)は、制作過程の動画を物珍しそうに眺め、「シンプルで洗練されている」と日本の物作りの奥深さに驚いていた。
人間国宝の存在も新鮮なようだ。元教師のリウアナ・マルティーニさん(74)は「イタリアは芸術が産業化と結びつき、伝統を失ってしまった。過去ばかり称賛する有りさまだ。日本の工芸品は人間性、生活の息吹が感じられる。人と伝統を守っていてすばらしい」と話していた。
スイスに本部を置く非営利団体「ミケランジェロ財団」が主催する国際工芸展。伝統的なものから現代のものまで、世界の名匠と技術を守り、物作りの知恵と作品を生んだ国・地域を広く伝えようと、2018年からイタリア北部の水の都、ベネチアに浮かぶサン・ジョルジョ・マッジョーレ島を会場に始まった。
2回目となる今回は4~5月に開催、4000平方メートルの敷地に、15の企画展が催された。日本からは12人の人間国宝を中心に工芸作品が招かれた。来場者は約5万5000人。
(2022年6月5日付 読売新聞朝刊より)
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