文化審議会は10月15日、新たに7件の美術工芸品を重要文化財にするよう、文部科学相に答申した。指定されれば国宝を含む重要文化財(美術工芸品)は1万820件になる。
由緒のある彫刻や古文書などに加え、列車やバス車両といった近代以降の交通・産業発展に貢献した資料も選ばれるなど、多様な価値を有する今回の新指定品を紹介する。
漆容器の蓋として再利用された古文書。漆が染みこんだことで紙が腐らずに残った。赤外線撮影などによる詳細な調査の結果、東北古代史の重要な情報が書かれていることが判明した。
多賀城は、古代東北の政治・軍事の中心地である陸奥国府・鎮守府であることから、漆紙文書は物品の貢進や請求に関わる文書・田籍文書・計帳などの公文書が多い。多賀城跡の発掘で大量に出土したのをきっかけに、各地に同様の資料があることも判明した。
宮城県多賀城跡調査研究所の高橋栄一所長(56)は「多賀城で出土した資料をきっかけに、研究所の先輩方が調査・分析を重ね、古代史研究の進展につながった。重文指定は研究所としても大変うれしい」と話している。
「国鉄バス第1号車」と称される。
1930年、鉄道省が乗合自動車を運行した際に初めて使用された大型の旅客用国産車7両のうち、現存する唯一の車両だ。鉄道省営バス岡多線(愛知県岡崎市―岐阜県多治見市)などを37年まで走った。
当時、国内では外国製のバスが主流だったが、鉄道省の方針に沿い、岡多線開業までの短期間に官民共同で国産車両を完成させた。高性能のガソリン機関など大半の部品を国内で製造したという。保守点検や修理の記録も残され、交通、産業技術史上の価値が高い。
現在はJR東海(東海旅客鉄道)の博物館「リニア・鉄道館」(名古屋市港区)に展示されている。天野満宏館長(63)は「大切に保管し、技術的遺産を後世に伝えていきたい」と喜んでいる。
内燃機関(エンジン)搭載の旅客用機械式気動車。全長19メートル、当初の定員は120人。鉄道省が発注し62両が製造された。車体の大型、軽量、高速化を実現し、国産気動車の標準となった。気動車の重要文化財指定は初めて。
第2次世界大戦前は大阪・宮原機関区、戦後は名古屋、富山・高岡、大分・豊後森機関区などに所属し、1969年まで使用されていた。指定される車両は、戦前の流行だった流線形車体や内装などが製造時の姿をとどめ、機械式の変速装置が残る唯一のもの。
東京帝国大学工科大学機械工学科教授の
指定を受けるポンプは、最初期に製造された現存最古のもの。
(2021年11月7日読売新聞から)
0%