国宝、重要文化財など日本の美や歴史を伝える貴重な美術品の修理、保存作業に必要な原材料が、生産者の高齢化、後継者不足のため、年々、調達が難しくなっています。修理を支える技術者と生産者の現状と、支援に乗り出した文化庁の「文化財の
匠 プロジェクト」を紹介します。
紙や絹、木など繊細な素材で作られている日本の絵画や仏像、書跡などの美術工芸品。経年による劣化で文化財の価値が損われてしまうことを防ぐためにも、定期的な修理は欠かせない。
課題は修理に必要な用具・原材料の確保だ。文化庁は支援の強化に乗り出したが、地道な修理作業に関わる業界の奮闘は続く。
例えば、絵画の修理に必要な手漉き和紙の原材料、コウゾやトロロアオイは、生産者の減少などにより入手が難しくなってきている。
そんな中、壁やふすまなどに描かれた障壁画の修理を手がける国宝修理
同連盟の山本記子・代表理事は「材料の確保と人材育成は文化財修理の両輪。業界に将来性がなければ、文化財修理を志す若者の意欲にも応えられなくなり、官民挙げて課題を解決する必要がある」と訴える。
同連盟所属の半田九清堂(東京都)では、絵画に使われたのと同じ原料の紙、太さや目の詰まり具合などが出来るだけ近い絹などを調達し、電子線で作品の経年劣化に合わせた工夫をするなど、科学の力も援用しながら、必要な原材料確保に苦心している。
「かつては関東だけで約50人いた
小林刷毛製造所(千葉県習志野市)の刷毛職人・田中重己さん(79)は嘆く。馬や
「刷毛板を作る職人がいなくなれば、刷毛生産はさらに厳しくなる」。父・重己さんの後を継ぐ宏平さん(47)は危惧する。
仏像修理などを担う公益財団法人美術院 国宝修理所(京都市)の
「一人前になるのに10年かかる世界。材料が手に入らないと、修理ができなくなるばかりか、昔の技術や道具を追体験する模造を通して技術を磨く機会も減ってしまう」と先行きに危機感を抱く。
(2021年8月22日読売新聞から)
0%