東京国立博物館所蔵の「
日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」の一環で、2019年度から修理が進められてきた。その経過を紹介する。
普賢菩薩像は、800年以上も前に制作された作品。「下地の絹や絵の具の傷みが著しく、過去の修理で施された処置の不具合と相まって、本格的な修理が必要な状態だった」と、東京国立博物館の沖松健次郎・調査研究課絵画・彫刻室長は振り返る。
2019年6月に仏画修理に造詣の深い専門家を交えた検討会を開き、以降、国宝や重要文化財の修理に多くの実績を有する半田九清堂(東京)が実務を担い、修理を進めてきた。
ただ、20年夏、作品の裏側に直接貼る肌裏紙に色材を混ぜた
一方で、絹が透けることを生かして、絹の裏からも絵の具を塗り、色彩表現を豊かにする「裏彩色」など、当時の技法を確認できた。沖松さんは「現在の印象を変えないことが大切。話し合いを尽くしながら、丁寧に進めていきたい」と話す。
調査をもとに欠損地図を作成する
修理にあたっては、制作当初にどのような技法や彩色が施されていたか、過去の修理によってどのような手が加えられたのかなど、複雑に重なり合った作品の現状を詳しく把握する必要がある。通常の光に加えて、赤外線や蛍光エックス線など、いろいろな光を当て、絵の具や本紙の状態を調査する。
顕微鏡を使って慎重に観察し、高精細画像で撮った写真を参考にしながら、オリジナルの表現が失われた部分を示す「欠損地図」を作成する。この地図を基に、欠損部の状況や修理のポイントを把握し、修理方針の検討を重ねていく。
掛け軸から本紙を取り外す
化繊紙と
裏面から軽い湿りを入れる
水を使って汚れを除く
絵の具の浮きを確認し、
彩色部分に膠水溶液を塗り、剥落を止める
作業はまだまだ続きます。
(2021年2月7日読売新聞より掲載)
2年にわたる普賢菩薩像の修理の流れをまとめた動画を制作しました。
伝統的な素材を用いた絵画の修理は「80年から100年ごとに行う」必要があり、作品の裏側まで見られる貴重な機会です。
今回は、以前の修理で補われた絹などを可能な限り取り除く作業が行われており、ルーペをのぞきながら、繊維を少しずつ除去する様子を初公開します。
高精細のデジタル鑑賞が楽しめる「TSUMUGU Gallery」では、普賢菩薩像の細部までクローズアップして見ることができます。詳しい作品解説とともにお楽しみください。
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