章構成

第1章 加賀前田家歴代

加賀前田家は、江戸時代、最大規模の石高を誇る大名家として、徳川一門との関係を重視しつつ領国統治に努め、14代にわたり家名を繋ぎました。本章では、初代・前田利家ゆかりの品々と、歴代当主が身にまとった甲冑と陣羽織を通して、加賀前田家の歴史と血脈を紹介いたします。

重要文化財金小札白糸素懸威胴丸具足 前田利家所用
安土桃山時代・16世紀 前田育徳会蔵

加賀前田家の初代・前田利家が着用したと伝わる甲冑です。全体が金箔で飾られた華やかな色彩と、高さ約80㎝にもなる熨斗烏帽子(のしえぼし)形の変わり兜が、とくに目を引きます。天正12年(1584)の佐々成政(さっさなりまさ)との合戦(末森城の戦い)で活躍した奥村永福(おくむらながとみ)に、利家から褒美として与えられたと伝えられ、のちに奥村家から加賀前田家5代当主綱紀に献上され、加賀前田家の重宝となりました。

重要文化財陣羽織 淡茶縬地菊鍾馗図 前田利家所用
安土桃山時代・16世紀 前田育徳会蔵

陣羽織とは、戦陣で武将が甲冑の上に着用した羽織です。本品は前田利家が着用したと伝わるもので、背面には魔除けの力をもつとされる鍾馗が大きく描かれています。本展が修理後の初公開となります。

銀箔押鯰尾形兜「鯰之尾御兜」 前田利長所用
江戸時代・17世紀 前田育徳会蔵

第2章 百万石の文化大名

江戸時代、太平の世へと移りゆくなかで、百万石を超える突出した石高を擁する加賀前田家は、その豊富な財力から文化大名として飛躍していきます。3代・利常は貴重な書画や舶来の文物を精力的に蒐集し、京都から名工を招いて武具や調度の工房「御細工所」を充実させます。その蒐集にかける情熱は、やがて5代・綱紀の時代に頂点を迎えることになります。

重要文化財荏柄天神縁起 巻上(部分)
鎌倉時代・元応元年(1319) 前田育徳会蔵 前期展示(4/14-5/10展示)

天神(てんじん)として広く信仰を集めた菅原道真(すがわらのみちざね)の生涯と、北野天満宮(現京都市)の由来などを描いた絵巻です。加賀前田家は歴代当主が(あつ)い天神信仰をもち、本作は5代当主・綱紀の頃に前田家の所蔵となりました。綱紀は、道真が編纂(へんさん)した歴史書『類聚国史(るいじゅこくし)』、漢詩文集『菅家文草(かんけぶんそう)』など、菅家関係の書画を多く集めています。

重要文化財アエネアス物語図毛綴壁掛
ニカシウス・アエルツ作 ベルギー・16~17世紀 前田育徳会蔵

ベルギー・ブリュッセルにて製作されたタペストリーです。画題は、トロイの戦士アエネアスがカルタゴの女王ディドに会う場面と伝わり、17世紀初めに日本に輸入され、その後前田家に入ったものです。ほぼ製作当時の糸や色彩を保持しており、世界的にもたいへん貴重なタペストリーです。

第3章 加賀前田家の武と茶の湯

加賀前田家の武と美は、刀剣と茶道具にも象徴されています。「名物」と称される名品をはじめ、旧蔵の名品も再結集させ、その全体像を紹介いたします。「名物」揃いの展示空間もお楽しみください。

国宝太刀 銘 光世作(名物 大典太)
平安時代・12世紀 前田育徳会蔵

「天下五剣」の一つとされる名刀で、数ある加賀前田家の刀剣の中でも筆頭に挙げられます。足利将軍家の伝来品で、豊臣秀吉から前田利家が譲り受けたという由緒が、刀剣鑑定の権威・本阿弥(ほんあみ)家がまとめた『享保名物帳』に記されています。作者の光世は筑後国三池(みいけ)(福岡県大牟田市)の名工で、三池典太ともいわれます。現存作はわずかで、本品はその最高傑作といえます。

重要文化財短刀 銘 吉光(名物 前田藤四郎)
鎌倉時代・13 世紀 前田育徳会蔵

加賀前田家に伝わる名刀の一つです。作者の吉光は京・粟田口(あわたぐち)派の名工で、通称を藤四郎といい、短刀を得意としました。本品は代表作の一つで、青黒い精美な地鉄(じがね)と白く冴えた直刃(すぐは)刃文(はもん)が見所です。

重要文化財大名物 唐物茄子茶入 銘 富士
南宋時代・13世紀 前田育徳会蔵

足利将軍家から織田信長を経て豊臣秀吉へ伝わり、慶長2年(1597)に前田利家へと下賜された茶入。加賀前田家にとって特別な位置にある道具であり、寛永6年(1629)には徳川秀忠、家光による藩邸御成の場面を飾りました。四季の花を彫る見事な「内赤盆」に乗る姿は、まさに「天下の名物」と呼ぶにふさわしい風格を湛えています。

名物 大井戸茶碗 福嶋井戸
朝鮮時代・16世紀  前田育徳会蔵

赤紫浅葱段卍繫牡丹散らしに飛雲応龍文様錦 有栖川裂
明時代・16~17 世紀 前田育徳会蔵 前期展示(4/14-5/10展示)

第4章 天下の書府

3代・利常の文化事業は、孫の5代・綱紀に引き継がれました。綱紀が蒐集した典籍の豊富さはとくに注目され、その圧倒的な蔵書は「天下の書府」と評されたほどです。本章では、綱紀が自ら整理分類し命名した工芸標本「百工比照」、さらに綱紀が礎を築いた「加賀宝生」の能面や能装束などもあわせ、加賀前田家の知と美の世界を紹介いたします。

国宝宝積経要品(部分) 足利尊氏・直義・夢窓疎石(むそうそせき)合筆
南北朝時代・康永3年(1344) 前田育徳会蔵 後期展示(5/12-6/7展示)

足利尊氏・足利直義・夢窓疎石が『大宝積経(だいほうしゃくきょう)』の主要部分を書写し、高野山金剛三昧院(さんまいいん)に納めたものです。裏面は当代一流の政治家や歌人が自ら筆写した和歌短冊120枚を継ぎ合わせてあり、それを折本に仕立て、その表面に尊氏ら3人が経文を書写している。綱紀が金剛三昧院に多額の寄付をして入手しました。

重要文化財百工比照 第三号箱第六架 釘隠引手等金具 第二重
江戸時代・17~18世紀 前田育徳会蔵

綱紀による、工芸を対象とした実物資料および技術見本集。全10箱のうち、第三号箱は3代・利常時代の引手金具等を保存しています。優美な意匠と緻密な金工技術が凝縮した、寛永文化の華やかな香りを伝える一群です。当時の工芸水準や室内装飾の様相など多彩な情報を伝えており、これらは前田家を代表する一大文化事業と言えるでしょう。

松唐草葵紋散蒔絵婚礼調度 溶姫所用
江戸時代・19世紀 前田育徳会蔵

第5章 侯爵前田家のコレクション

近代以降、加賀前田家は本拠を金沢から東京に移し、侯爵家へと転身します。16代・利為は5代・綱紀の偉業にならい、美術工芸品の蒐集や伝来品の整理に努めました。そして前田家伝来品を確実に後世へ存続させるべく、大正15年(1926)に育徳財団(現在の前田育徳会)を創立しました。本章では、利為蒐集品を紹介するとともに、東京・駒場にある旧前田家本邸洋館の室内に飾られていた品々を展示いたします。

シロクマ
フランソワ・ポンポン作 フランス・1930年
前田育徳会蔵

バン
フランソワ・ポンポン作 フランス・1930年
前田育徳会蔵

フランスの彫刻家フランソワ・ポンポンの作品2点。利為が、日本大使館付武官としてヨーロッパに滞在中、美術館でポンポンの彫刻を見て気に入り、昭和5年(1930)にアトリエを訪れて直接注文したものです。帰国後、シロクマは旧前田家本邸洋館1階の大客室の窓際に飾られました。

オートグラフ バッハ楽譜
ヨハン=セバスティアン・バッハ筆
1743~1746年 18世紀 前田育徳会蔵
5月12日(火)~5月24日(日)展示

ドイツの作曲家バッハによる「ルカ受難曲」(BMW246)第40曲・コラール「深き淵より」の自筆楽譜。楽曲はバッハ自身の作ではなく、彼が1743年から46年の間に編曲したもので、利為が、昭和4年(1929)にベルリンで購入したものです。