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2021.3.8

【継承 祈りの舞vol.1】観世家の誇り伝える 観世清和・三郎太親子インタビュー

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康ら天下人が愛したと伝わる「能」。その舞芸には、国家の安寧や鎮魂などの祈りを込めているといいます。東日本大震災から10年を迎える2021年3月、江戸城で行われていた能を中心とする特別公演「祈りのかたち」を皇居外苑で、政府の文化プログラム「日本博」の一環として再現します。出演者らの芸を継承する思いなどを特集します。

皇居外苑の二重橋前で開催される日本博特別公演「祈りのかたち」に、二十六世観世宗家、観世清和さんと嫡男の観世三郎太さんが「おきな」「土蜘蛛つちぐも」「石橋しゃっきょう」の3演目に出演する。700年近く続いた能を未来につなげるためには、何が必要なのか。稽古に打ち込む2人に語ってもらった。

稽古は「忍」

「落ち着いてやらなくてはダメです」

2月初旬に東京・銀座の観世能楽堂で行われた「翁」の稽古で、清和さんは「です・ます」の丁寧な言葉遣いで三郎太さんを教えていた。「それが『大人の稽古』というものです。先代家元(二十五世宗家・観世左近元正さん)から私が受けてきた稽古を踏襲しています」

能の稽古は「教える側も教わる側も『忍』の一字です」と清和さんは強調する。「反復しかない。芯がぶれない基本の技を10年、20年かけて五感に染み渡らせるように消化吸収していってほしいと思います」

三郎太さんは、舞台を離れても清和さんを「先生」と呼んでいる。「普段から尊敬する人に抱くおそれのような思いがあります。先生の大きな背中を追いかけて日々、精進していきたい」と語る。

観世三郎太さん(中央)に稽古を付ける清和さん(東京都中央区の観世能楽堂で)

清和さんは1990年、先代の急逝により31歳の若さで家元となり、以来30年にわたり流儀を守ってきた。先代の享年(60歳)を超えた今、未来に家と芸を手渡せる後継者を得たことが「うれしいですし、これほど頼もしいことはない」と顔をほころばせる。

三郎太さんは「不思議なことにやめたくなったことは一度もない。能が生活の一部で、子供の時からこの道しかないと自分にはわかっていました」と言う。10代の頃は普通の男の子のような反抗期もあったというが「稽古の時間になったらしっかりやっていました」。清和さんも「息子への稽古は夫婦の共同作業でした。学校から帰ってきた三郎太を家内がうまく稽古場へと導いてくれました」と振り返る。

息子は「鏡」

清和さんにとって三郎太さんの存在は「鏡」と言う。「教えているうちに、先代の教えがよみがえる。まさに世阿弥が言った『初心忘るべからず』です」。稽古中には先代をはじめとする先祖から「お前も頑張れ」と耳元でささやかれているような気になり、慢心が戒められるという。

三郎太さんに、公演の見所と意気込みを聞くと、「『翁』は平和への祈りの気持ちが大事です。『土蜘蛛』は初めて能を見る方にも非常にわかりやすい演目で、『石橋』も華やかな演目です。今、日本中が落ち込んでいる中、もっと頑張っていこうという気合の舞を見ていただきたい」と力強く語った。

清和さんも「3日間、各流儀、能楽界を代表する名人の方々が出演されますし、我々の世代から三郎太や観世淳夫さん、(狂言方の)野村裕基さんと、次世代につなげていく大事な公演でもあります。素朴だけれども芯の強さがある『大和心やまとこころ』の美しさ、そして『思いやりの心』を忘れずに勤めたい」と力を込めた。

皇居の表能舞台跡(奥)を訪れ、当時に思いを巡らせる清和さんと三郎太さん(皇居で)

清和さんと三郎太さんは2月上旬、会場の下見を兼ねて皇居を訪れた。草木がうっそうと茂る旧江戸城の能舞台跡地に立つと、徳川家に仕えていた先祖が見ていた景色を追体験できたという。

「(皇居は)観世の家だけでなく能楽全ての故郷の地でもある。門をくぐった時、先祖たちも銀座の屋敷からこうやって登城していたのかと思うと、距離が縮まった気がしました」と清和さんはしみじみ語った。

観世流とは?

能は天下人に愛好され、武士の式楽として歴史を紡いできた。中でも豊臣秀吉は多くの猿楽の「座」の中から、大和国(現在の奈良県)で活動していた「大和四座」を保護した。この四座が、観世、金春こんぱる、宝生、金剛の四流派となる。江戸時代に新たに喜多流を加えて、五つの流派が幕府の式楽と定められ現在に続く。観阿弥・世阿弥を祖とする観世流が、約600人の能楽師を擁する日本最大の流派となっている。

プロフィール 

かんぜ・きよかず 1959年生まれ。90年に家元を継承。米国、フランス、インドなど海外公演も数多く行っている。2015年に紫綬褒章

かんぜ・さぶろうた 1999年生まれ。父・観世清和に師事し、5歳で初舞台。現在は大学3年生で法学を専攻しており、修業と学業を両立している。

日本博皇居外苑特別公演 ~祈りのかたち~公式サイトはこちら

(2021年3月7日読売新聞朝刊より掲載)

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