2021.1.22

【養成事業50年】歌舞伎や文楽 担い手育てて半世紀…国立劇場の挑戦

日本芸術文化振興会(国立劇場)の伝統芸能伝承者養成制度が今年度、50周年を迎えた。歌舞伎俳優など伝統芸能の後継者不足を補うため、新人を養成し、各分野に人材を送り込んできた。研修出身者は今や伝統芸能を支える柱となり、人間国宝も生まれている。伝統の技を後世に伝える、国立劇場の取り組みを紹介する。

はじまりは人材不足

伝統芸能伝承者の養成制度は1970年、後継者の不足が危ぶまれていた歌舞伎俳優の募集から始まった。日本芸術文化振興会(国立劇場)は、66年に発足し、伝統芸能公演を制作して、場と機会(ハコ、コト)を提供するとともに伝承者(ヒト)の養成を重要な課題として取り組んできた。

歌舞伎俳優の養成は、一門への入門などに任されてきたが、国立劇場が門戸を広げ、志望者を公募して2年間の研修期間で総合的な俳優養成を行う制度を発足させた。

文楽の研修の様子(国立文楽劇場提供)
座学に実技…講師にはあの文豪も

研修のカリキュラムは、平日午前10時から午後6時まで、実技だけでなく講義など一般教養を盛り込んだ画期的な試みだった。初年度の1期生10人は、一線に立つ歌舞伎俳優の指導を受けるばかりでなく、70年に亡くなった作家の三島由紀夫の講義「観客から見た歌舞伎の魅力」など歌舞伎の世界以外の講師からも学んでいる。

研修出身の歌舞伎俳優は2020年4月現在、97人にのぼり全体の3割以上を占めるまでになった。近年では、2期生の中村歌女之丞さん、中村梅花さんが「幹部」となっているほか、日本俳優協会など認定の格付「名題(なだい)」に40人が昇進している。

9コース、受講料は無料

養成事業は、歌舞伎音楽(竹本、鳴物、長唄)、能楽(三役)、文楽など9コースまで拡大、各分野を担う演技者、演奏者などを輩出し、研修出身者は4分の1を占めるまでになり各分野を支える柱に成長している。受講料は無料、奨励費を貸与し、修了後は就業3年で返済免除の制度を設けているが、若い人が伝統芸能に接する機会が少なくなり、研修の志望者は先細りが避けられない。歌舞伎俳優は毎期約10人が研修を受けてきたが、昨年度は4人、今年度は1人だけだ。

国立劇場の田村博巳・調査養成部長は「小中学生向け歌舞伎教室の出身者を受け入れるなど松竹、伝統歌舞伎保存会と協力してきたが、(東京に)閉じこもっていては伝承者の卵を確保できない」と危機感を持つ。地方で郷土芸能に親しむ子どもたちへのPRなど「伝統芸能への興味喚起の新たな仕組み作りが必要だ」と、募集、広報の強化を進めている。

大阪では文楽の技芸員を養成

文楽研修は72年から始まり、国立文楽劇場が開場した1984年からは大阪で主に研修が行われている。期間は2年間で、開講から8か月後に適性審査が行われ、本人の希望なども考慮して太夫、三味線、人形遣いの三業のいずれかを専攻する。現在の技芸員のうち過半数は研修出身者が占めており、制度の果たす役割は大きい。

歴史的に見ても、文楽と関係のない家の出身者が人間国宝になる例も多く、 小河原匠養成係長は「研修生出身で師匠の大きな名跡を継いでいる人もいる。海外からも注目される芸能。300年の伝統を継ぐ未来のスターをぜひ目指していただきたい」と期待する。

研修生の募集、締め切り迫る

日本芸術文化振興会は、歌舞伎俳優と文楽の2021年度研修生を募集している。いずれも研修期間は21年4月から2年間、応募資格は中学校卒業(卒業見込みを含む)以上の男性、23歳以下。受講料は無料。締め切りは歌舞伎が 1月29日 、文楽は2月4日まで。

詳細は公式サイトへ

(2020年11月8日付読売新聞朝刊より掲載、一部加筆)

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