万国津梁 アジアの架け橋
琉球王国は、今の沖縄県から奄美諸島にかけてかつて存在した国家です。12世紀以降、一体的な文化圏を形成し、15世紀に政治的な統合を遂げて誕生した琉球王国は、日本や朝鮮半島、中国大陸や東南アジアと盛んに交流し、アジア各地を結ぶ中継貿易の拠点として大いに栄えました。王国や港市・那覇の活況を今に伝える記録、交易でもたらされた国際色豊かな品々からは、アジアの架け橋となった琉球王国の繁栄ぶりがうかがえます。
琉球王国は、今の沖縄県から奄美諸島にかけてかつて存在した国家です。12世紀以降、一体的な文化圏を形成し、15世紀に政治的な統合を遂げて誕生した琉球王国は、日本や朝鮮半島、中国大陸や東南アジアと盛んに交流し、アジア各地を結ぶ中継貿易の拠点として大いに栄えました。王国や港市・那覇の活況を今に伝える記録、交易でもたらされた国際色豊かな品々からは、アジアの架け橋となった琉球王国の繁栄ぶりがうかがえます。
琉球国王尚氏は、1470年からおよそ400年にわたり琉球を治めました。歴代の国王は中国の明、清朝の冊封を受けて王権を強化し、島々の統治と外交、貿易を推進しました。17世紀初め、薩摩島津氏の侵攻により王国は大きな変化を余儀なくされますが、新たな体制と国際関係を築き上げ、やがて安定した統治のもとで琉球の芸術文化が開花します。首里城を彩った王家の宝物、中国皇帝や日本の将軍、大名に贈られた美しい漆器や染織品、そして国際交流により洗練されていった書画は王国の高い美意識と技術を物語るものです。
南島とも呼ばれる琉球列島では、日本や中国、朝鮮半島、台湾、東南アジアとも関わりの深い「南の文化」が展開しました。サンゴ礁の豊かな海によって独自の「貝の文化」が育まれ、人びとは貝を斧などの実用的な道具に加工したり、首飾りや腕輪などの美しい装身具に仕上げて身につけたりしました。やがて、海を通して行われた交流や交易から、本州へとつながる「貝の道」が生まれます。貝をはじめとした海産物は、先史時代から欠くことのできない重要な資源だったのです。本章では先史時代の人びとが日々の暮らしに用いた道具とともに、交流によってもたらされた希少な品々を紹介いたします。
豊かな自然と東アジア諸外国との深いつながりのなかで、琉球の人びとの暮らしは営まれ、独特の歴史文化を築いてきました。なかでも女性が祭祀を司るという特徴は、姉妹が兄弟を霊的に守護する「おなり神信仰」に通ずるともいわれています。人びとの美意識も、こうしたしまの自然と風土に深く関係しています。本章ではしまの暮らしと祈りの形を通して、土地に根ざした多様な文化、地域の個性を見つめます。
沖縄は、これまで多くの困難を乗り越え、その歴史と文化を未来につなぐ努力を続けています。平成4年(1992)の首里城再建や、「琉球王国文化遺産集積・再興事業」による王国時代の手わざの復元は、人びとの地道な研究の積み重ねと、モノづくりの真実に迫る熱意によって実現しました。沖縄が昭和47年(1972)に復帰してからの半世紀は、まさに琉球・沖縄のアイデンティティーを取り戻すための歳月だったといえます。本展の締めくくりとして、首里城の復活を中心に、琉球文化の復興と継承の道のりをたどります。
「手わざ」とは、手仕事による高度な技術を意味します。沖縄県立博物館・美術館が平成27年度より行ってきた琉球王国文化遺産集積・再興事業では、文化財とその制作技術の復元に努めてきました。完成した作品は、絵画、木彫、石彫、漆芸、染織、陶芸、金工、三線に至る8分野65件、携わった専門家、技術者は県内外の100人以上にものぼります。本展では、沖縄の「手わざ」とその技術を未来へとつなぐ多くの人びとの想いを紹介いたします。
左:模造復元 美御前御揃 (御玉貫)制作風景
右:模造復元 聞得大君御殿雲龍黄金簪 制作風景
2019年の首里城の焼失から1年後、NHKの特集番組「デジタルでよみがえる首里城」(2020年11月放送)で紹介した首里城復元CG映像(最盛期とされる18〜19世紀の様子)を、一部会場でも上映します。
鮮やかな黄色に胸や肩には鳳凰を、腰から裾にかけては中国の官服に表現される文様を紅型で染めています。鮮やかな赤い襟の振袖仕立ては、若い王族のために儀式などの正装用に仕立てられたのでしょう。
色とりどりの玉を多数取りつけ、金の簪をつけた琉球国王の冠。合計288個もの金・銀・水晶・珊瑚・琥珀・瑪瑙・軟玉の7種の飾玉が金鋲で留められており、王権の象徴であると同時に、琉球独自の美意識がうかがえます。
海洋王国・琉球の繫栄を象徴する梵鐘。琉球王国は、船の交易によってアジア各地を結ぶ「万国津梁」(万国の架け橋)であると自らうたった銘文を刻みます。かつて首里城の正殿に懸けられていたと伝わる鐘です。
琉球の島々に伝承された古歌謡「おもろ」の歌謡集。おもろの題材は信仰、祭祀、築城、造船、貿易、航海、租税、島々の支配など多岐にわたります。琉球語の歌謡を日本から伝わった平仮名で表記する点も注目です。
五穀豊穣や王府の安寧を祈願する祭祀を司った神女組織のなかで、最高位にあった聞得大君が所持したと伝わる金銅製の簪。カブと呼ばれる半球状の頭部には、太陽とみられる大きな渦や龍を精緻に表しています。
琉球独特な形状の足付盆。器体の表面に朱漆を塗り、彫刻刀で文様を彫ったところに金箔を摺り込む沈金という技法で装飾が施されています。盆の見込から足の側面にかけて、山間に幽居する人物の姿が繊細に表された名品です。
振袖に仕立てられた王族の少年の衣裳です。宝珠を携えた双龍文様は、王家を象徴する文様でした。型紙を用いて絵文様を色鮮やかに染める琉球独特の紅型は、まぶしい南国の陽ざしに映えたことでしょう。
玉冠とともに、国の重要な儀式でのみ用いられる冬季の礼装用の表着(うわぎ)です。中国・清朝の皇帝から下賜された官服用の錦を用いていますが、広い袖は明時代の礼装の伝統を守り、垂領(たりくび)の襟は琉球衣裳の仕立てとなっています。
鞘(さや)の全面に薄い金板を巻き、柄頭には竹節状の鐶(かん)を取りつけるなど、一般的な日本刀の拵とは大きく異なる琉球独自の点が目をひく宝剣です。もとは今帰仁城(なきじんじょう)を本拠とした山北(北山)王歴代の一振で、のちに尚家に献上されたと伝わります。
貝をはじめとする海由来の素材を用いた道具や装身具は、当地における文化の特色です。本作品はヤコウガイの最も湾曲の大きな部分を打ち割ってつくられたもので、研磨によって変化する真珠層の色彩が美しいです。
沖縄の先史文化を代表する装身具がジュゴンの骨でつくられた蝶形骨製品です。ジュゴンが生息するサンゴ礁の海は豊かな海の象徴でもあり、本作品は当時の人びとが海の恵みを活かして暮らしていたことも示しています。
厨子甕とは、洗骨を入れて墓室に納めるという琉球特有の墓葬を象徴する蔵骨器。胴に刻まれた銘文から被葬者と納骨の年がわかる貴重な作品です。
ノロは村落祭祀を司る女性。女性が祭祀の中心的役割を担うという点は琉球の宗教の特徴のひとつです。王国の中央集権化とともに、ノロも中央の神女組織に組み入れられました。
奄美大島の自然や習俗などが詳細に描かれています。九州と沖縄の間に位置する奄美群島は古くから人びとの往来があり、かつては琉球王国の統治下にありました。本作品からは沖縄と共通する風俗や習慣が見て取れます。
錫製の瓶の上から、色とりどりの飾玉をあしらった酒器です。編み込まれたガラス玉は、隙間がより小さくなるように、あえて不揃いのものを組み合わせていたことがわかりました。
19世紀前半の首里城を描いた図。正殿と御庭(うなー)を囲む中心部を象徴的に描いています。王国時代の首里城の姿を伝える貴重な絵図です。
愛らしい鴨のかたちをした水注です。型を使って羽の細部まで丁寧に表し、からだを黄と緑の釉薬で彩っています。ノロ(神女)をつとめた旧家に花入として伝わったものです。
中国明時代の末頃に福建で焼かれた鮮やかな三彩のやきものは、首里城からまとまって発見されています。祭祀などで珍重されたのでしょう。こちらもノロの家に伝わった貴重な作品です。
山口宗季(やまぐちそうき)(呉師虔(ごしけん)、1672~1743)は王府の絵師で、中国の福建(ふっけん)地方に留学して、精緻な花鳥画表現を学びました。その作品は、琉球と交流のあった薩摩(さつま)を通じて京都でも評判となったといいます。
冊封使(さっぽうし)として琉球に赴き、程順則(ていじゅんそく)ら当地の文化人と親交を結んだ徐葆光(じょほうこう)の書。琉球や日本では、中国の文人の書が珍重されました。
小堀遠州が所蔵していたとされる琉球漆器の天目台。朱漆塗に沈金や箔絵などの技法を駆使して、雲のなかを舞う龍の姿を色鮮やかに表しています。
祭祀を執り行うノロ(神女)が用いる大形の扇です。ノロは首里王府から任命され、王国の支配を宗教的な側面から支えました。
魔除けの蝶々を表す三角形の裂を継ぎ接ぎにしたノロ(神女)の衣です。琉球だけではなく、日本や中国で織られ、染められたさまざまな裂を縫い合わせている所に、琉球文化の特徴が見られます。
17世紀後半に窯場が壺屋に統合され、琉球の製陶が開花します。深い緑色の釉が印象的なこの瓢形の瓶は婚礼や祭祀の際に酒を入れたもので、琉球独特のうつわです。
王家の正月祭祀などに用いられた道具。原資料は、王族家の中城御殿に伝わっていましたが、沖縄戦で消失しました。戦前の原資料の写真や、那覇市歴史博物館の所蔵品などを参考にして模造復元されました。
祭祀のうつわを載せるための足付盆です。沖縄美ら島財団の所蔵品に基づいて復元されました。唐草の立体的で繊細な彫りと、天板の沈金技法に圧倒されます。
うちな〜噺家はなしかと称し「⽇本の南の島に住む⼈々の生活」を伝えるため、高座噺はなしとおしゃべり(ゆんたく)で笑いを交えながら、沖縄出⾝者、沖縄好きの⼈はもちろん沖縄を知らない⼈たちにも⼗分に理解してもらえる物語を創作し演じている。役者としても活動し、NHKラジオ第一「沖縄熱中倶楽部」、連続テレビ小説「ちむどんどん」出演中(金城順次役)。
「ちむどんどん」
金城順次 役で出演