2019.12.13

日本の美を、次の世代へ―知られざる日本美術の「修理」とは

修理の前には、内部の構造や使われている素材などを確認するため、詳しい調査が行われる。重要文化財「木造観音菩薩・梵天・帝釈天立像(二間観音)」(京都・東寺蔵)は、X線調査で一流の技が確認された

平安時代の絵画が、いまなおその美しさで私たちを魅了し、鎌倉時代の彫刻が力強く見る者を圧倒する――。文化庁、宮内庁、読売新聞社が進める「紡ぐプロジェクト」では、日本の美を次の世代に守り伝えるために不可欠な修理事業に取り組んでいる。

紙や絹などの布、木など脆弱ぜいじゃくな素材でできた日本の文化財が、長い時を経て受け継がれてきたのは、そのときどきに適切な修理が施されてきたからにほかならないが、これまでその現場の様子はあまり披露されてこなかった。「紡ぐプロジェクト」では2019年度、特別協賛、協賛計18社の協力を得て、国宝、重要文化財8件の修理をスタートする一方、その修理現場を取材し、公式サイト「紡ぐ TSUMUGU : Japan Art & Culture」で伝えている。

誰が修理費を負担する?

国宝や重要文化財などの美術工芸品は、国から個人まで、様々な人や団体が所有している。良い状態で後世へと継承していくためには約100年ごとに修理を施していく必要があるが、例え国宝でも、国がその費用を全額負担するのではない。自治体によって補助が出る場合もあるが、所有者の負担が大きく賄いきれない場合もある。

修理が行われなくなると、文化財はどんどん劣化し、取り返しのつかない状態になってしまう。また近年では、地震や台風などの自然災害によって、文化財が被害を受ける例も多い。

そこで、企業や財団などの民間資金で修理費を助成する取り組みが広がりつつある。紡ぐプロジェクトでは、協賛社からの協賛金と、紡ぐプロジェクトが開催する展覧会の収益の一部を修理費に充てることで、文化財の「保存・修理・公開」という一連のサイクルを、永続的に回すことを目指している。

サイトで修理状況を詳細に紹介

修理の第一段階は調査から始まる。紡ぐプロジェクトで2019年度から3年かけて修理を行う国宝「阿弥陀あみだ二十五菩薩にじゅうごぼさつ来迎図らいごうず」(早来迎はやらいごう、京都・知恩院蔵)では、傷み具合や使用している顔料を確認し、適切な修理方法を探るためにX線撮影なども行いながら、約半年間かけて詳細な調査を行った。その後、汚れを取るクリーニングを行い、絵の部分(本紙)と軸の表具の部分を切り離し、新たに裏側から和紙やのりなどで補強するといった作業が行われる。また、表具や保存用の箱も新調する。

修理の技や素材 継承に課題も

修理方針を決める際、もとの素材を再度使うか、新たに用いる和紙の色をどうするかなどは、所有者のほか、文化財を保存、継承、活用するための専門家である文化庁の調査官や研究者、修理所の担当者らが協議して決める。作られた当時の姿に戻すというより、現状を保ち、さらに50年、100年後に再び修理しやすいよう材料を選ぶという。

こうした作業の「技」そのものの伝承も大きな課題になっている。

文化財保護法では、文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術などのうち、後継者不足などで担い手が少なく、対策が必要なものを「選定保存技術」として選定し、その保持者や団体を認定している。その中には、修理作業そのものはもちろん、その作業のための道具や、材料である和紙など製作する技術者も含まれる。和紙などは、さらにそれを作るための原材料の生産者も少なくなっている。

2020年度は修理助成対象を公募 

紡ぐプロジェクトでは、2020年度の修理助成事業の対象となる文化財を2019年12月20日まで公募している。有識者によって選定される次年度の修理の状況についても、引き続き取材を進める。

また、原材料の生産現場をめぐる現状や、修理技術者がいかに文化財と向き合い、調査結果から修理方針を固めていくなどの試行錯誤の過程も引き続き伝えていく。

【国宝「普賢ふげん菩薩像」 東京国立博物館蔵】

修理方針を決めるための検討会が開かれた。

記事はこちら → 国宝「普賢菩薩」修理方針の検討会開かれる

【国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」 京都・知恩院蔵)】

表具から本紙を切り出す作業が行われた。

記事はこちら → 「早来迎」表具から取り外し 本格的な修理スタートへ

【重要文化財「木造執金剛神しゅこんごうしん立像りゅうぞう・木造深沙じんじゃ大将だいしょう立像」像内納入品 和歌山・高野山金剛峯寺蔵】

彫刻の中に収められていた経典の修理。細く巻いて金属製のかすがいで打ち止められていたため、蒸気を当てながら丁寧に開く作業が行われた。

記事はこちら → 高野山金剛峯寺 像内から発見の経典 修理方針を確認

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