2021.8.26

【原材料のいま③】「膠」生産の源流たどる~武蔵野美術大の取り組み

国宝、重要文化財など日本の美や歴史を伝える貴重な美術品の修理、保存作業に必要な原材料が、生産者の高齢化、後継者不足のため、年々、調達が難しくなっています。修理を支える技術者と生産者の現状と、支援に乗り出した文化庁の「文化財のたくみプロジェクト」を紹介します。

にかわ〔画材〕

さまざまな膠。画材として用いられている(武蔵野美術大美術館で)
傷つけず剥がせる接着剤

日本画の伝統的な画材として知られるにかわは、絵の具と画面をつなぎ合わせる接着剤として古くから重宝されてきた。

牛や鹿など動物の骨や皮を煮出して抽出した動物性タンパク質を固めたもので、皮革産業が盛んな地方都市などで作られていたが、現在は伝統的な手工業による生産は途絶え、工業的に生産されている。

壁一面に展示された膠と画材など(武蔵野美術大学美術館で)

武蔵野美術大学(東京都小平市)は5~6月、膠に関する調査研究をまとめた展覧会「膠を旅する」を学内の美術館で開いた。動物の皮など実物資料と膠を用いて描いた日本画作品を併せて展示し、膠づくりの社会的な背景を見つめ直す狙いだ。

牛や鹿の皮といった実物資料も展示された(武蔵野美術大学美術館で)

開催にあたり、研究者や画家たちは大阪や兵庫の皮革生産の歴史的背景や伝統技術など現地調査を重ねた。監修した同大学名誉教授で日本画家の内田あぐりさんは「膠づくりの道筋をたどることで、皮革産業を中心とした動物資源の利用のあり方や、狩猟の風習といった文化の源流が見えてきた」と話す。

絵画の接着剤は合成樹脂など多様な素材が普及しているが、水を与えると元に戻り柔軟性のある膠は、古美術や絵画の修復をすることが出来る。熱を加えると、木材を傷つけずに剥がせるメリットがある。今でも文化財の保存修理や高価な楽器の接着などに利用されているという。

原材料・人材 確保へ 「匠プロジェクト」
漆を掻き取る作業。1本の木から200グラムほどしか取れない

文化財修理に欠かせない原材料の確保や人材を育成する体制を強化するため、文化庁は2022年度から「文化財のたくみプロジェクト」と名づけた取り組みを始める。

文化財修理を担う中心となるのは、伝統文化を守るための優れた技術を持つ「選定保存技術」の保持者と保存団体だ。現在、保持者は53人いるが、甲冑かっちゅう修理や木工品修理など15の分野の保持者の平均年齢は73歳と高齢化している。

プロジェクトでは、保持者の数を現状の1.5倍の約80人に増やすほか、美術工芸品修理工房で働く技術者らを同庁の「修理調査員」に任命して、職人の育成・活躍の場を設ける。

原材料確保には、生産のための必要経費を補助する支援事業を現状のコウゾやトロロアオイなどの5品目から、2024年度までに麻糸、真綿、夜光貝など25品目に広げる考えだ。次世代の文化財修理技術や原材料の研究を行う拠点を京都に新設することも検討している。

(2021年8月22日読売新聞から)

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