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2020.5.20

「完璧でないから愛される」 修理品に価値を認める日本独特の感性とは

竹内順一・元永青文庫館長に聞く
重要文化財「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」
南宋時代・12~13世紀 東京国立博物館蔵 三井高大氏寄贈

中国を舞台にした2000年の映画「初恋のきた道」(チャン・イーモウ監督)に印象的なシーンがある。割れた思い出のおわんを、職人がキリで穴を施し、かすがいでホチキスのようにトントンととめて修理する。見事な手さばき。中国だから出来る昔からの技だ。

女優チャン・ツィイーさんの映画デビュー作「初恋のきた道」
(DVD、発売・販売元=ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

このような鎹の技法で修理された中国・南宋時代の名碗が日本にある。鎹を大きなイナゴに見立てた銘を持つ、重要文化財「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆ばこうはん」(東京国立博物館蔵)だ。

室町時代、足利義政の手にあった際、ひびが入り、中国に送って替えを求めたが、勝るものは作れないと鎹止めされて送り返されたと伝える。だがこれは、江戸中期の知恵者・伊藤東涯とうがいのでっち上げた話。中国風の絶妙な命名もそう。実際は中国で割れた青磁が修理され、日本にもたらされたのだろう。

同じような名品には「青磁輪花茶碗 銘 鎹(馬蝗絆)」(マスプロ美術館蔵)がある。室町時代に記録が残り、口縁には、漆と金を用いた日本流の金繕い(金継ぎ)も施されている。

これらの鎹の修理で驚かされるのは、鎹が器の反対側に飛び出していないこと。青磁は厚さ3ミリ程度と薄い。恐らく1ミリ弱まで穴を開け、鎹で止めているのだ。

中国で鎹止めされたとはいえ、修理された品であるが故に価値を認め、愛でるのは、日本独特の感性だ。青磁は、完璧さが賞玩される観賞陶器であるとともに、茶道具でもある。茶道具では少しひねた見方がされ、ゆがんだり割れたりしたものを愛する。人間も少し欠点を内包していた方が尊敬される。完璧さを嫌う日本独特の考え方が反映している。

割れも繕いも隠さず「長所」に

こうした世界観を背景に、焼成中に生じた陶磁器の火割れなどでも、逆にそれを「景色」として楽しむセンスが生まれた。江戸時代の本阿弥光悦作で、「光悦五種」「光悦七種」としてたたえられる2作が代表的だ。

重要文化財「赤楽茶碗 銘 雪峯せっぽう」(畠山記念館蔵)は、大きな火割れに金繕いが施されている。これは漆で接着し、金粉でお化粧する日本的な技法だ。その造形を峯からの雪解けの渓流になぞらえており、日本的な名前も抜群にいい。

「赤楽茶碗 銘 障子」(サンリツ服部美術館蔵)も、火割れが漆で繕われている。茶碗の後ろには裂け目が3本あり、光にかざすと、透明な釉薬ゆうやく越しに透けて見える。こうした風情が障子に見立てられている。

繕い方には、他に「呼継よびつぎ」の技法もある。欠けた部分を全く異なる陶片で継ぐ方法で、これほど図々しい開き直り方もない。「瀬戸筒茶碗 呼継」(永青文庫蔵)は、染付磁器の破片が漆でV字形に継がれていて、誠に斬新だ。

修理されたり、火割れの造形を生かして繕われたりしても、それを隠さない。居直っている。だからこそ歴史の重みが増し、通常ならば欠点になるところが長所になる。こうした器を外国人が見ると「こんな風に大事にしているのか」と驚嘆する。今でいう「エコロジー」の精神にもあふれた美しさだと思う。(談)

たけうち・じゅんいち 1941年生まれ。美術史家(茶道美術史、日本工芸史)、東京芸術大名誉教授。永青文庫(東京都文京区)館長など歴任。著書に「織部 日本陶磁全集16」「美術館へ行こう(やきものと触れあう 日本)」など。 

(2020年5月3日付読売新聞朝刊より掲載)

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