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2019.12.9

【外交官アート日記】ハンガリー大使「温泉交流で日本・ハンガリー関係は強まる」

ハンガリーのパラノビチ・ノルバート駐日大使インタビュー

ハンガリー大使館の執務室で「紡ぐプロジェクト」のインタビューに応じるパラノビチ・ノルバート駐日大使

ハンガリーのパラノビチ・ノルバート駐日大使はこのほど、東京・三田にある大使館で「紡ぐプロジェクト」のインタビューに応じた。「日本通」として知られ、安倍首相の「日本語を話す駐日各国大使との昼食会」にも招かれるパラノビチ大使は、ハンガリーが日本と同様、温泉大国であることを強調し、「温泉つながりで両国はますます関係が強まる」と語った。

――パラノビチ大使は学生の頃から日本との関わりが深いと聞いている。最初は日本という国、あるいは日本文化について、どのような印象を持ったか。

私は2002年から関西外大(大阪・枚方)で学び、京都にも大阪にも出やすいところにいた。そこであちこち見て回ったわけだが、京都のお寺の雰囲気が好きで、枯れ山水が強く印象に残った。京都は雰囲気が欧州と大きく異なり、街中が落ち着いていて、リラックスできるところだ。日本の自然観、社会観といったものが分かり始めたのも、その頃だった。

2004年からは名古屋大学大学院に留学し、日本の政府開発援助(ODA)について博士論文を書いた。私はジャーナリストだったので、そういった方面に関心があった。

名古屋は観光地として魅力がないと言う人がいるが、そのようなことはない。徳川園のような庭園があるし、徳川美術館もある。特に美術の分野では、面白いところなのではないか。名古屋は住みやすいし、伊勢神宮(三重・伊勢)や下呂温泉(岐阜・下呂)にも行きやすい。

神社と言えば、出雲大社(島根・出雲)が印象的だった。伊勢神宮もそうだが、特別な雰囲気があったというか、スピリチュアルなものを強く感じた。

――東京を初めて見たのはいつか。

やはり、留学生の頃だ。渋谷や皇居の周りを歩き回った。観光スポットばかりだったが、とても印象的だった。一番楽しかったのが、当時、人気スポットだったお台場(東京)だ。電車にふらっと乗って、たどり着いたのがお台場だった。欧州にはないような街だった。

欧州で東京に似た都市と言えば、ロンドンかパリくらいか。だが、ハンガリーの首都ブダペストも全国の人口の5分の1が集中し、政治やビジネスの中心だし、芸術の面でも影響力が強い。東京が違うのは、とてつもなく大きい、ということだ。

――来年の東京五輪・パラリンピック開催で、欧州からの訪日客は大きく増える見通しだ。日本のどのようなところを見せたいか。

都会ばかりでなく、地方をぜひ見てもらいたい。自然が豊かで、人々がとても優しい。最近、島根と鳥取を旅したが、とても印象的だった。

――逆に日本人には、ハンガリーのどのようなところをアピールしたいか。

私は温泉が大好きで、旅先にあれば、必ず入っている。その温泉だが、ハンガリーも多く、全国に380か所もある。東京の大使館では、温泉の宣伝に力を入れているし、東京、長野、大分などで写真展も開催した。日本人にはぜひ、ハンガリーの温泉に入ってもらいたい。

「ハンガリーと日本の文化交流は盛んだ」と語るパラノビチ大使

温泉地が多いことは、日本とハンガリーの共通点の一つだ。温泉つながりで、両国はますます関係が強まるだろう。

――今年は日本とハンガリーの外交関係樹立150周年の節目に当たる。

そうだ。ハンガリーが社会主義国だった頃は、両国間の外交が事実上ストップしていたが、1959年に国交が回復され、そこを起点とするなら、60年ということになる。90年代に入り、ハンガリーが自由な時代を迎え、両国間で新しい交流が始まると、友好関係が深まった。経済関係も強まり、観光は拡大した。91年には、スズキ(マジャールスズキ社)がハンガリーに進出し、その翌年から自動車の現地生産を開始した。今や日本企業は165社を数え、3万5000人も雇用を創出している。

――両国間の文化交流はどの程度進んでいるのか。

文化交流は盛んだ。日本では平均で週2回は、どこかでハンガリー関連のイベントが開かれている。年間100本のイベントがあるということだ。地方でも行われている。今年は国交150周年ということもあり、さらに多い。150本に達してほしいと思っている。

特に音楽の分野での交流が活発だ。ブダペストのリスト音楽院(リスト・フェレンツ音楽大学)は、日本からの留学生が非常に多い。

教育交流も盛んだ。ハンガリーの大学は、日本について専門的に学べる学科が多く、若者の間で日本人気が高い。かつては、浮世絵などのアートや能楽といった伝統芸能に関心が向かっていたが、近頃は武道熱が高まり、空手、柔道、剣道、合気道に人気が集まっている。そのほかにはもちろん、アニメと漫画だ。

150周年を記念するイベントとしては、来年3月まで国立新美術館(東京・六本木)で開かれている「ブダペスト国立西洋美術館&ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」展がメインだ。アジアで初めて展示される作品が多い。

また、12月9日には、ハンガリーの文化の魅力を発信する「ハンガリー文化センター」が東京の麻布十番にオープンした。日本では知られていないハンガリーをアピールしていきたいと思っている。

12月6日、ハンガリーのシーヤールトー・ペーデル外務貿易相(左から2人目)、河野洋平・日本ハンガリー友好協会会長(中央)が出席して行われた「ハンガリー文化センター」(東京・麻布十番)の開所式。ペーデル外務貿易相は「センターがオープンし、ハンガリーと日本の文化交流はますます深まるだろう」と話した。
「ハンガリー文化センター」外観
「ハンガリー文化センター」内部

――日本では年号が平成から令和に移り、新天皇が即位した。どのように受け止めたか。

日本でこうした伝統がしっかりと守られていることは、素晴らしいことだと思う。現代は伝統を守りにくい時代なのではないかと思うが、古くからあるものは便利か不便かが問題なのではない。社会がしっかりと守るべきだ。文化的な遺産を守ることにかけては、日本は非常に上手だ。こういったところに、日本と欧州の違いを感じる。日本は(文化遺産の)外側は守ることができなくても、中身はしっかりと守る。伊勢神宮は20年に1度の式年遷宮があるが、そのスピリチュアルな部分はしっかりと守られている、といったことだ。すごいことだと思う。欧州は外側をしっかりと直すが、中身が薄れてしまう気がする。

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