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2021.2.16

「ボンボニエールの物語vol.39」陶磁器製ボンボニエールの物語

六角形黄心樹石南花文
常陸宮正仁親王・華子妃金婚式記念 平成26年(2014年)9月30日
7.0×6.3 高さ3.0 cm(個人蔵)

前々回は九谷焼、前回はプラスチック製と、銀製以外のボンボニエールのお話をさせていただいたが、今回は、最近では主流ともなっている陶磁器製のボンボニエールについての物語である。

御即位や御成婚などの皇室の公的祝事では、銀製のボンボニエール(銀鍍金めっきの場合もあるが……)が制作されているが、宮家の内宴では陶磁器製のボンボニエールが制作されることが多い。その傾向は、昭和55年(1980年)の三笠宮寬仁ともひと親王御結婚の頃から見られ、最近では、陶磁器製がほとんどを占めるようになっている。

陶磁器製ボンボニエールの魅力は、何といっても、色絵付けによる美しさ、華やかさ、細やかさなどの表現力であろう。その魅力を何回かに分けてご紹介したい。なにしろ、陶磁器製ボンボニエールのバリエーションは、1回ではご紹介できないほど豊富なのである。

深川製磁製のボンボニエール

陶磁器製ボンボニエールの制作に関わっているメーカーは大倉陶園、香蘭社などいくつかあるが、その一つに、深川製磁もある。冒頭のボンボニエールは、常陸宮正仁まさひと親王・華子妃の金婚式記念の際に、深川製磁によって制作されたものである。

深川製磁は、言わずと知れた有田(佐賀県)の名窯である。創業者の深川忠次ちゅうじは、日本で最初の陶磁器メーカー、香蘭社の創立メンバーだった8代・深川栄左衛門えいざえもんの次男として、明治4年(1871年)に生まれた。忠次は同27年(1894年)、23歳で香蘭社から分離独立し、深川製磁を創業した。その後、同33年(1900年)のパリ万博に製品を出品し金賞を受賞。同37年(1904年)の米セントルイス万博では、金賞を受賞するだけでなく、出品者中、売り上げトップとなるなど、海外でも極めて高い評価を得た。

明治43年(1910年)からは宮内省御用達となり、数々の宮中食器を制作している。中でも、正餐せいさん用洋食器は、明治15年(1882年)頃に有田の精磁せいじ会社が制作した様式を深川製磁が踏襲し、現在でも、国賓を饗応きょうおうする宮中晩餐ばんさん会で使われ続けている。

卵形色絵黄心樹石南花文 常陸宮正仁親王・華子妃御成婚25周年記念
平成元年(1989年) 7.8×5.7 高さ5.5 cm
(深川製磁参考館蔵)

その深川製磁が手掛けた常陸宮正仁親王と華子妃の御成婚25周年記念(銀婚式)の際のボンボニエールは、卵形の表面に黄心樹おがたま石南花しゃくなげが対面で配されている作品。黄心樹は正仁親王のお印、石南花は華子妃のお印である。石南花の花は薄いピンクで描かれ、それに合わせ、葉も淡い緑のグラデーションで描かれている。

制作にあたった深川製磁相談役の深川いわお氏は、まず、正仁親王のお印である黄心樹を庭に植えたという。さらに、華子妃のお印である石南花も植え、その花の時期になると、毎年欠かさず写生をしている。

巌氏の手元には、石南花のデッサンが数多く残されている。デッサン画は、表裏の葉色の違いや茶色の変色部なども写実的に捉えているが、ボンボニエールのデザインの段階では、その雰囲気をとどめたまま、淡い草色のグラデーションで表現することで、同時に気品も兼ね備えさせている。

深川巌 「石南花」
昭和57年(1982年)・昭和60年(1985年)
(個人蔵)

高円宮典子のりこ女王(当時)の御成年記念のボンボニエールも深川製磁製。ほぼ立方体の箱形で、蓋の中央には、金彩きんさいで高円宮家の紋章が置かれ、清明な色絵のらん文が側面部に配されている。蘭は、典子女王のお印である。

高円宮家の承子つぐこ女王、典子女王、絢子あやこ女王(当時)の御成年の際のボンボニエールは、いずれもこの器形、文様構成で、それぞれはぎ、蘭、葛のお印が配されている。他のボンボニエールに比べると、一回り小ぶりなつくりは、女王にふさわしい可愛かわいらしさである。

四角形色絵蘭文
典子女王御成年 平成20年(2008年)7月
4.2×4.2 高さ4.0 cm(個人蔵)

これらのボンボニエールは、深川製磁参考館(佐賀県西松浦郡有田町幸平)で実物を見ることができる(要事前予約)。

こちらにも、コロナが収束したら、ぜひ、いらしていただきたい。

長佐古美奈子

プロフィール

学習院大学史料館学芸員

長佐古美奈子

学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。

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