2020.7.15

【音月桂の和文化ことはじめvol.5】コツはトップコンビを選ぶ!京都で学んだ華道の魅力と心

女優の音月桂さんと行く「和文化ことはじめ」第5回は、古都・京都で、いけばなを体験し、華道が培ってきたおもてなしの心を学びます。

実はこの取材を行ったのは2月末。その後、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため全国的に外出自粛となり、事態が落ち着くまで掲載を控えていました。華道は季節感を大切にしますが、今回は時期が異なってしまいました。今一度、過ぎ去った春を振り返るとともに、心に潤いを与えるお花の奥深い世界を、音月さんと一緒に探ってみましょう。

華道はお寺から始まった

音月さんが訪れたのは、いけばなの流派「池坊」発祥の地、京都市中京区の頂法寺。「六角堂」の名で親しまれています。聖徳太子による創建で、1400年以上の歴史がある古刹こさつですが、ここの住職は代々、池坊の家元が務めているのだそう。現在の住職は四十五世家元の、池坊専永氏です。

「今でも、仏様の前にお花を供えますよね。祈り、将来への希望などを花に込めてお供えします。その芸術性を高めたのが、いけばなの始まりです」。教えてくれるのは、田中良宜執事です。

仏教が伝来した6世紀以降、仏前に花を供える風習が広まりました。そこから、スタイルを洗練させた「いけばな」が成立したのは、室町時代。1462年に書かれた京都・東福寺の僧侶の日記に、六角堂の僧侶・池坊専慶が武家屋敷で花をいけ、京都中の評判になったというエピソードが残っているそうです。

いけばなは、男性のたしなみ

「今はいけばなというと、女性の習い事のイメージがありますが、僧侶が始めたことからも、元々は男性が中心でした。いわゆる『花嫁修業』のイメージで、女性の華道人口が増えたのは明治以降です」。池坊の代々の家元も男性で、女性の家元は、次期家元である池坊専好さんが史上初だそうです。

華道の始まりを知り、興味を深めた様子の音月さん。「いけばなは、ただのフラワーアレンジメントではなく、神聖なものだったんですね」と神妙に手を合わせます。「花は美しく、癒やしを与えてくれる命あるものですが、いずれは枯れてしまう。限りある命を悔いなく、無駄なく生きなさいという教えも込められています」と田中さんが教えてくれました。

歴史の重み

六角堂の中を散策した後は、隣接する「いけばな資料館」へ。ここには国の重要文化財に指定されている「立花之次第りっかのしだい九十三瓶有ぺいあり」(池坊専好立花図)をはじめ、いけばなの歴史を今に伝える貴重な文書や花器が並びます。

重要文化財 立花之次第九十三瓶有(華道家元池坊総務所 蔵)

「代々、池坊の家元は、宮中や戦国武将の城を彩る花の制作を命じられました。その時にいけたものを記録した絵図が残っています。江戸時代に入ると、庶民の間でもいけばなは人気になり、家の床の間などに飾る今のようなスタイルになりました」と資料館の細川武稔さん。

いけばなのスタイルは、時代とともに洗練され、花を留める剣山は100年あまり前に発明されたものなのだそう。絵図に興味津々の音月さん、「長い間、試行錯誤を重ねて今にいたった、華道の歴史の重みを感じます」と話していました。

「森羅万象」「天地人」を表すいけばな

資料館から「道場」と呼ばれる和室へ移動し、いよいよ華道体験が始まります。「花が大好きで、公演の楽屋にはいつもお花を飾っていますが、華道は初めてで……」と少々緊張気味の音月さん。先生は、池坊短期大准教授も務める藤井真さんです。

藤井先生、いけばなとは何ですか?「花器の上に大自然を再現し、森羅万象を表現するのが、いけばなです。お花の命を一度は取りますが、いけることで、また新たな命を吹き込むんです」と優しく教えてくれます。「ですから、見るのではなく、『拝見させていただく』という気持ちでいてください。お花から私たちは元気をいただき、命のありようを学ぶ。お花に感謝する心が大切です」。先生から心構えを教えてもらうにつれて、音月さんの顔つきがりりしくなっていきました。

床の間にいけた花を見ながら、 「いけ方にルールはありますか」と音月さんが尋ねると、 藤井先生が「池坊では……」と流儀の教えを披露してくれました。今回、床の間にいけられたのは「生花しょうか」という花形のいけばなで、「しん」「そえ」「たい」の三つで構成されています。基本的に、中央に立つ主役の枝が真、中段奥に大きくふり出している枝が副、手前にある下段の花が体で、それぞれ、人、天、地を表し、大自然の万物を象徴しているといいます。「ですから、平面的にではなく、立体的にとらえることが重要です」

つぼみに込めた思い

「立体で……」と床の間の花に近寄る音月さん。手前の「体」の位置にある花が、つぼみであることに気づきました。「今日のお客様である音月さんの方につぼみが向いているのは、これから音月さんが花開かれるように、という思いを込めたんですよ」と藤井先生に言われて、「私のために?」と驚く音月さん。床の間の花は、ゲストを思っていけるものだそう。「そんな思いがこもっていたなんて、とてもうれしいし、奥深いですね。そうか、知識があれば花の楽しみ方がもっと広がるんですね」と、ますます興味を深めた様子です。

この日の「花材」は、まもなく訪れる春をテーマに、サクラ、アイリス、チューリップ、菜の花、スイートピーなど、音月さんが好きな旬の花を中心に用意してもらいました。「今日は自由花という花形で、自由にいけていただきます。全ての花を使う必要はありませんよ」。藤井先生が、いけ方の基本を教えてくれます。

舞台監督の気持ちで

「まずは主役を1種類、決めてください。次に、それに対応する花を選びます。いわば宝塚歌劇のトップスターとトップ娘役みたいなものですね。あとは色や形で、脇役を決めていきます。花だけでなく、茎や葉の部分も見てくださいね。花を手に取り、360度まわしてみて、一番気に入った花の顔、姿を探してみましょう」。

「なるほど、全体を見ないと駄目なんですね」。先生がいけながら、ポイントを教えてくれます。「でも、一番大切なのは自分の思いを込めること。この花のテーマを決めることですよ」

先生のお手本を見て、いよいよ音月さんの番。「今日は、舞台監督になったつもりで作りたいと思います」。じっくりと、花を見比べて、手に取ったのはサクラです。「主役は、サクラにします。大好きな花だし、色々な出会いが広がってほしいという思いを込めて」。中央に、りんといけました。

「次は、相手役ですよね。春のイメージだし、黄色が好きだから」と、手に取ったのは菜の花。茎を花ばさみで整えると、サクラの隣に力強く挿しました。

「サクラは人々を喜ばせてくれるから、主役だと思います。相手の菜の花は、寄り添うように、でも依存はせず自立している。お互いのレールを走りながら、いざとなると助け合う二人のイメージを込めました」と音月さん。りりしい表情でいける手つきに、迷いは見られません。

続いて、白い可憐なスイートピーを数本選びました。「これは、アンサンブルの皆さん。アンサンブルがいてこその主役ですし、しっかりと土台を支えてくれるイメージ。日ごろの感謝の気持ちを込めたいと思います」

どの角度からも美しく

時に眉間に皺を刻んで、考えながら花を選ぶ音月さん。茎を切る時は「かわいそう、ごめんなさいね」と声をかけます。悩みつつも、思い切りよく進める様子に、「さすが、決断力をお持ちです。決断力は、いけばなをするのに重要なんですよ」と先生。褒められて、音月さんに笑顔が戻りました。

花を挿し終わると、「360度、どこからみても美しくしたいんです。立体感や広がりももっと出したいな」と、角度にこだわって調整し、手を止めました。

「どうでしょう……」と不安げな音月さんに、「初めてなのに、テーマもしっかりしていて、センスがある。本当に素晴らしいできばえです」と先生は絶賛。「このままでもいいのですが、手を加えるのなら、皆さんで羽ばたくというイメージで……」とゴットの葉を2枚だけ残して広げ、足元にもう1つ添えました。「羽のイメージです。空間の広がりも生まれますよね」と言われて、「本当だ! すごく良くなりましたね」と音月さんも大満足の作品が完成しました。

できた~! 足元の羽のように開いた葉(中段)は、藤井先生のアドバイス
飾るとさらに素敵
身近なものでもいけばな

「いけばなは、自宅にあるものを使ってでもできますよ」。そういって先生が見せてくれたのは、ペットボトルやワイングラスにいけた花。カップには、コーヒーをイメージしたチョコレートコスモスが愛らしく収まっています。「かわいい!」と音月さんもはしゃぎます。

「花一輪、葉一枚をいけるだけでもいけばななんです。大切なのは、いける時の気持ち、心。季節や咲き具合、色合いなどを工夫しながら、身近なものでいけていただければ。生活も、心も潤いますよ」。藤井先生の言葉に、「私も花束をいただくのですが、そのまままとめて花瓶に入れていました。今日習ったように、テーマを考えて、いけてみるともっと素敵になりますね」と音月さんも納得です。

最後にサプライズ!

最後に、藤井先生からサプライズプレゼントがありました。

音月さんの好きな花であるラナンキュラス、宝塚歌劇雪組のイメージでユキヤナギ、元トップスターという来歴にちなんだブルースター、そして「日本を代表する女優に」という思いを込めたサクラコマチ……。音月さんが好きな色もちりばめた、特別ないけばなです。

「すごい! すごくすごく、きれいですね! 私の『好き』がすべてつまっています!」と音月さんは大感激、喜びを爆発させました。「本当にうれしいです。いけて下さった方のお気持ちが伝わって、温かくて……。これがまさに、日本ならではのおもてなしの心なんですね」

<華道ことはじめ>芸に通じる精神 華道でも学ぶ

お花が好きで、部屋や楽屋にいつも飾っています。花を見ると気持ちがリフレッシュできて、いやされるからです。でも、今日華道を経験してみて、これまでは自分のためだけに花をめでていたことに気づきました。花は人と人とのつながり、誰かへの思いを託すもの。粋で素敵な考え方ですね。

以前ある方から、「華道を学ぶと決断力がつく」と言われたことがありましたが、それも今日、理解できました。あれこれ考えながらも、思い切って手を動かし、枝を切り、いけないことには始まらない。そしてうっかり短く切りすぎても、もう戻すことはできない。短くなったものを、どういかすか、頭を使って考えないといけない。

舞台でも、ミスをフォローし、好転させることはとても大切なんです。たとえばカフスボタンをうっかり落としても、それをどう拾えばお客様に格好良く見えるか、いつも考えていました。失敗を恐れない精神、勇気、度胸……華道から学べることは、とても深いし、芸事とも相通じるものだと強く感じました。いつか習ってみたいと思います。

●六角堂

京都市中京区六角通東洞院西入堂之前町

●いけばな資料館

京都市中京区六角通東洞院西入 池坊会館3階
・開館時間 午前9時~午後4時
・休館日:土曜・日曜・祝日・年末年始・お盆期間
見学は要予約。詳しくは公式サイトへ。

池坊では、2020年9月~11月にかけて、名古屋、福岡、京都で花展を開催する。詳しくは池坊公式サイトイベントページへ。

(企画・取材 読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来、撮影 仲尾次亮子)

音月桂

プロフィール

女優

音月桂

1996年宝塚音楽学校入学。98年宝塚歌劇団に第84期生として入団。宙組公演「シトラスの風」で初舞台を踏み、雪組に配属される。入団3年目で新人公演の主演に抜擢されて以来、雪組若手スターとして着実にキャリアを積む。2010年、雪組トップスターに就任。華やかな容姿に加え、歌、ダンス、芝居と三拍子揃った実力派トップスターと称される。12年12月、「JIN-仁/GOLD SPARK!」で惜しまれながら退団。現在は女優として、ドラマ、映画、舞台などに出演している。

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