国宝 檜図屏風 狩野永徳筆 四曲一双 安土桃山時代・天正18年(1590)東京国立博物館

2019.8.18

【ソフィーの眼】永徳「檜図屏風」 絵から飛び出す巨木の感動

「紡ぐプロジェクト」が東京国立博物館(東京・上野)で開催した「美を紡ぐ 日本美術の名品 ―雪舟、永徳から光琳、北斎まで―」展(5月3日~6月2日)では、訪れた人たちが、日本の伝統美術の逸品をめでる機会を与えられた。文化庁、三の丸尚蔵館、東京国立博物館の数多い所蔵品の中から出展作品を選べる利点を生かし、学芸員たちは、約40点と比較的少数だが、わくわくさせられるような作品を展示してくれた。そこには日本の美術で最も大切にされ、好まれてきたテーマがあり、これらの展示作品によって、日本で美術を鑑賞することについて色々と考える喜ばしい機会も与えられた。

1590年作とされる狩野永徳の豪華な「檜図屏風ひのきずびょうぶ」一双を例に取ってみよう。永徳は、将軍に仕えた狩野派を代表する絵師である。金地の絵画の表面から飛び出してくるような巨木に感動せずにはいられない。日本美術を象徴する様式である屏風は一双が通例で、室内装飾として欠かせないものだった。畳の上でまっすぐ立つように、くねらせて置いたことは知っておいていい。折りの角度によって構図が際立ち、奥行きが感じられるようになる。ろうそくの明かりで、金地がほのかな光を放っているのを、想像してみてほしい。

10世紀に成立したとされる「伊勢物語」は無数の絵師たちにひらめきを与えたが、有名な「八橋」の場面はとりわけそうだった。18世紀には、尾形光琳、尾形乾山の才能豊かな兄弟がこのテーマに取り組んだ。この場面で、京の都を出た主人公はかきつばたが咲く池にかかる橋のほとりで足を止め、歌を詠む。光琳は優雅で叙述的なアプローチ、弟の乾山はより抽象的で大胆な描き方を取り、人物像は省いて、橋とかきつばたに注力した。乾山の作品は文字もちりばめられ、物語の主人公が作った歌を想起させる。

伊勢物語 八橋図 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館

絵画に文字が含まれることに驚かれる向きもあるだろう。しかし、これは日本美術の際だった特徴の一つだ。何世紀にもわたって、歌は美しい装飾紙に書き写され、その文字が自然をモチーフにしたイメージに添えられたり、あるいは、その文字に金銀がぜいたくに加えられたりして、優雅な装飾であり続けてきた。10世紀には、屏風の表面に歌を添えて、描かれている風景を補完し、たたえるという様式が流行した。書は、西洋人には分かりにくい芸術かもしれないが、時間をかけてじっくり見てみると、スタイルの違いや筆遣いの力強さなどが分かり、そうしてみるだけの価値はある。線の細さや太さ、優美さや大胆さといった筆遣いの特徴は、筆者の性格や心中を映しているとされる。

八橋図 尾形乾山筆 江戸時代・18世紀 文化庁

葛飾北斎が1839年に描いたとされる、なぞめいた作品に最後に触れてみたい。木版画がよく知られる北斎だが、この作品は日本美術のさらに意外な面を物語る作品として注目に値するし、とても新鮮だ。鮮やかな色彩のジューシーな果肉に半透明の紙をかぶせた、紙のように薄く切られたスイカの皮2枚がリボンのように縄からつるされ、半分に切られた果物の上に垂れ下がっていて、和紙で覆われた色鮮やかな果肉の上に包丁が載せられている。画題は何なのだろう。俳句ではスイカが七夕と関連して取り上げられるので、何らかの俳句と関係があるのかもしれないが、確かなことは何も分からない。1839年の作品なので、この絵師が80歳の時に描かれたものということになる。

この展覧会は、そのもろさ(露光のないところで保存されなければならない)や高貴な出所ゆえ、あまり展示されることがない傑作を見る機会を提供してくれた。説明パネルは4か国語で詳細な情報を提供し、この展覧会を魅力的なものにしているだけでなく、国外からの来訪者にとっても、アクセスしやすいものとなっていた。しかし、私がこの展覧会を見に行った時は、周りが日本人ばかりだということに気づいた。美術を愛好するみなさんにはぜひ、「紡ぐプロジェクト」の展覧会を探し出し、足を運んでもらいたい。

ソフィー・リチャード

プロフィール

美術史家

ソフィー・リチャード

仏プロヴァンス生まれ。エコール・ド・ルーヴル、パリ大学ソルボンヌ校で教育を受け、ニューヨークの美術界を経て、現在住むロンドンに移った。この15年間は度々訪日している。日本の美術と文化に熱心なあまり、日本各地の美術館を探索するようになり、これまでに訪れた美術館は全国で200か所近くを数える。日本の美術館について執筆した記事は、英国、米国、日本で読まれた。2014年に最初の著書が出版され、その後、邦訳「フランス人がときめいた日本の美術館」(集英社インターナショナル)も出版された。この本をもとにした同名のテレビ番組はBS11、TOKYOMX で放送。新著「 The art lover’s guide to Japanese museums(美術愛好家のための日本の美術館ガイド)」は2019年7月刊行。2015年には、日本文化を広く伝えた功績をたたえられ、文化庁長官表彰を受けた。(写真©Frederic Aranda)

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